1997年4月 No.86

第49回日本ビタミン学会を主宰するにあたり

徳島大学医学部教授        山本    尚三

   
    栄養素として見出されたビタミンは、補酵素としての研究の時期を経て、遺伝子と活性酸素という今日的な研究課題と関連して、活発な研究が進められている。日本ビタミン学会の会員の所属からも伺えるように、ビタミンの研究は医栄歯薬理農工家政という生命科学の広汎な分野にわたって学際研究が行われて来た。学会50周年の今、古い革袋に新しい酒を盛ることが求められている。
栄養学の重要な研究課題としてのビタミンの研究は、新物質の発見として何人ものノーベル賞受賞の対象となり、続いてその補酵素作用機構の生化学的研究が、水溶性ビタミンを中心に展開して来ました。最近では脂溶性ビタミンが注目され、その作用機構が分子生物学的研究課題の1つとなっています。本大会で特別 講演シリーズとして“分子ビタミン学”を企画したのも、このような研究の流れに沿うものです。一方では生化学や分子生物学の一部ではないビタミン学独自のあり方を、日本ビタミン学会設立後50年を経た現時点で、私達は模索しなければならないと存じます。
    第49回に当たる本年度の大会は、5月8日(木)〜9日(金)に四国の徳島市で開催されます。昭和53年に勝沼信彦先生が大会委員長を務められてから19年ぶりに、私が徳島での大会委員長を拝命して大変光栄に存じ、徳島での会員の方々の御協力を得て、準備に努めています。明石大橋の開通 していないのは残念ですが、新緑の四国路は魅力的であります。多数の方々の御越しをお待ちしております。
    第1日の午前と第2日の午前と午後の冒頭に、特別講演(30分)を一緒に聴いていただきます。“分子ビタミン学”シリーズとして、深田吉孝(生物時計とレチナール蛋白)、加藤茂明(ビタミンD受容体)、新井洋由(ビタミンE輸送蛋白質)、鏡山博行(ピリドキサル酵素)、上田国寛(ポリADP−リボース)の諸先生に、それぞれのビタミン関連物質の分子レベルの働きについてお話をお願いしてあります。
        第1日午後は総会の後で、本年度の学会賞受賞者の下山誠(ADP−リボシル転移酵素)と奨励賞受賞者の増田園子(ビタミンD関連化合物定量 法)と新井洋由(ビタミンE輸送蛋白質。特別講演として第2日に)の諸先生の受賞講演があります。
    一般演題は約120題の申込みがあり、講演10分、討論2分の口頭発表が、3会場(一部2会場)に分けて、それぞれ特別 講演と総会の後に組まれております。ビタミンA、D、E、K、不飽和脂肪酸、ビタミンB1、B2、B6、B12、C、ナイアシン、ビオチンなどのセッションがあります。各セッションの座長については、今年度は評議員の方々に御推薦をいただき、できるだけ若い先生方にお願いするよう努めました。
    第1日夜の懇親会は、学会場に近い徳島東急インで行われます。阿波踊りの実演ショーを用意していますので、賑々しく御参加下さい。
    なお、学会場の郷土文化会館の開館時間の都合で、第1日朝の登録が混雑して御迷惑をかけることを懸念しております。できれば前日の5月7日(水)の12時〜21時に、徳島東急インで受付を用意しておりますので、参加登録や懇親会券の御購入は、多数の方が前日に済ませて下さることを特にお願い致します。

 
 

ビタミンEの補給と高齢者の死亡率

-Antioxidant Vitamins Newsletterより-
中年層を主として対象としたいくつかの研究で、通常ビタミンCや総合ビタミンと組み合わせた形でビタミンEを、米国RDAsよりもかなり高用量 で摂っている人達は、冠動脈硬化性心疾患を発症するリスクがかなり低い事が示されている。また冠動脈硬化性心疾患を持つ人々では、ビタミンEの補給によって症状の進行が弱まったり、新たに心筋梗塞を発症するリスクが低下していることが見られている。心臓疾患に対する、このビタミンEの高用量 が示している明らかな予防効果は、少なくとも部分的には、動脈血管壁の低比重リポたん白質(LDL)の酸化を阻止するこのビタミンがもつ機能に、多分由来するものであると考えられている。このリポたん白質の酸化は、心臓発作のひき金になる、動脈の異常であるアテローム性動脈硬化症の原因となるものである。  国立老化研究所(National Institute of Aging)の新しい研究では、ビタミンEの予防効果 が、以前の研究では必ずしも十分に対象としていなかった高齢者に迄及ぶことを示した。この研究では、67才以上の、11,000人以上の人々が、3年の間隔をおいて2回面 接調査を受け、さらに6年間にわたって継続的に追跡調査を受けた。320人の対象者が第2回の面 接時に単一成分のビタミンEを摂取していると答え、またその中の184人は、さらに単一成分のビタミンCをも併せ摂取していると答えている。  ビタミンE補助食品の摂取に伴って、冠動脈硬化性心疾患によって死亡するリスクに47%の低下が見られた。2回のインタビューにわたって、共にビタミンEを摂っていると答えた人達の冠動脈硬化性心疾患による死亡率は、さらにより低くなっている。これらの多くの人達は長期にわたるビタミン栄養補助食品愛用者である様に思われる。 in vitroにおける生化学的研究は、ビタミンCが、ビタミンEを酸化から守ることによって、ビタミンEの抗酸化作用が、ビタミンCによって強められることを示している。この作用が生体内で起こりうることについては、未だ明確に示されていない。しかし先に述べた研究の結果 は、ここで述べたこの種の相乗効果と一致するものであることを示している。研究対象者の中で、ビタミンCのみを摂取し、そして第2回の面 接の時点においてもビタミンCのみを摂取していた人達は、冠動脈硬化性心疾患による死亡について、リスクの低減が見られなかった。しかし一方でビタミンCをビタミンEと共に摂取していた人達は、ビタミンEのみを摂っていた人達に比べて、より低い冠動脈硬化性心疾患による死亡率を示している。ここに示されているグラフは、冠動脈硬化性心疾患死に関する、いろいろなビタミン剤服用者グループと非服用者の間の相対リスクを示したものである。  ビタミンの補給は、研究の対象となった人々の間において、その他のすべての死因に対するリスクの低減との間にも関係があることが示されている。如何なる原因による死亡についてみても、フォローアップ期間中、ビタミン補助食品の服用者の死亡率は、非服用者のそれに比べて34%も低い。  この結果と、以前の研究によって得られたその他の知見を併せて考えると、冠動脈硬化性心疾患(そして多分死亡率に関係するその他の慢性疾患に対しても)に対するビタミンEの明らかな予防効果 は、何も若い人達に対してのみに示されるものでは無く、高齢者に対しても同様に見られるのである。この研究に関係した研究者達は、ビタミンE補給に関する臨床試験に、高齢者も対象に含められるべきであると提案している。
いろいろなビタミン剤服用者グループと非服用者の間における
冠動脈硬化性心疾患による死亡率

冠動脈硬化性心疾患による 死亡の相対リスク
*2回の面接ともビタミンE服用者と確認された人達
長期にわたるビタミン剤服用者と思われる。

図に示されているすべての相対リスクは、年齢及び性についてのみ補正した。
(多変量解析でも同様のパターンを示した)
すべてのビタミンE服用者、EとCの服用者及び2回の面接時のE服用者の
リスクは非服用者に比べて、顕著に低い。


 
 

1996年におけるハイライト一年の総括

ビタミン研究の分野で、1996年は話題の多い 
一年であった。以下はそのハイライトである。
-Antioxidant Vitamins Newsletterより-
ビタミンCのRDAをより高くすべきであると研究が示唆
    1996年における最も注目すべき展開は、現行のビタミンCのRDA(勧奨栄養所要量 )が低過ぎるという、米国NIH(国立健康研究所)の報告で示された研究であろう1)。ビタミン必要量 を確定するため、現状の最善の知識に基づく方法を用いたこの研究は、ビタミンCのRDAが現行の日量 60mgから日量200mg迄に増やされるべきである事を立証した。

葉酸、ホモシステイン(心臓病の危険因子)と心臓病
    ハーバード大学で行われた重要な研究の結果によると、葉酸に関する現行のRDAもまたより高く設定されるべきであることが示されている2)。この研究において、ボストン郊外に住む多くの人々は、RDAに見合う十分量 の葉酸を食事から摂っているにも係わらず、彼等の血中葉酸レベルの低い事がわかった。この葉酸の低いレベルは、血中に過剰に高いレベルで存在する心臓病のリスク要因であるホモシステインという代謝産物の存在と関係している。
    この結果は、葉酸に関するRDAの再検討が必要である事を示している。仮にヒト集団のある割合の人々が、RDAに見合う量 のビタミンを摂取していても、そのビタミンの正常な血中レベルが維持されていない場合、そのビタミンのRDAは高く設定される必要があることになる。

ビタミン摂取量が低い在宅の虚弱な高齢者
    高齢者における特定の栄養要求は、昨年のビタミン研究の重要な焦点であった。ジョンズ ホプキンス大学の研究者が発表した研究の結果 によると、虚弱な在宅の高齢者は、いろいろなビタミンを不適切に摂取するリスクが高いという3)。この研究で示されたビタミンDの低い摂取が、特に懸念の理由となっている。虚弱な高齢者は稀にしか戸外に出ないので、太陽光をビタミンDの供給源として利用する事が出来ない。従ってこのビタミンを食事や栄養補助食品から十分に摂取する事が、この人達にとっては重要なこととなる。また、このジョンズ ホプキンス大学の研究では、不適切なビタミンの摂取が、在宅の虚弱な高齢者の方に、介護施設にいる人達よりも多く見られると指摘している。従って、在宅の高齢者や、これらの人々の介護をしている人達に対して、より密接に栄養学的指導を行う必要がある。

冠動脈硬化性心疾患を持つ患者におけるビタミンEの補給4)
(ケンブリッジ心臓抗酸化栄養素研究)
    動脈壁内にすでにアテローム性硬化症を持つ患者に対して、高用量のビタミンE投与が心臓発作のリスクを低減させ得るという仮説を検証する為、英国の研究者達は、ケンブリッジ心臓抗酸化栄養素研究(Cambridge Heart Antioxidant Study CHAOS)と呼ばれる比較対照試験を行った。

血管造影診断法で冠動脈硬化症を持つと診断された総計2,002人の心臓病患者は、それぞれ、ビタミンEもしくはプラシーボを投与されるグループに無作為に区分された。この試験は、平均510日間継続された。ビタミンEを投与された対象者の中で、約半数の人達が800IU/日の用量 を投与され、後で参加した人達は400IU/日を投与された。この試験は、複合的に、心臓血管に関係する死及び非致死性心筋梗塞の発症に対するビタミンEの効果 を調べることを目的として設計されたものである。
    表に結果 を要約して示した。心臓血管系に起因する死亡及び非致死性心筋梗塞の発症について併せて見た場合、ビタミンEの投与群は、非投与群に対してリスクを顕著に低減させた(相対リスク0.53、95%CI 0.34―0.83;P=0.005)。しかしこの低減は、主として非致死性心筋梗塞におけるリスクの劇的な低減によるものである(相対リスク0.23、95% CI 0.11―0.47;P=0.005)。心臓血管系疾患による死亡については、特に大きな変動は認められていない。
    この研究の結果 は冠動脈疾患を持つ患者に対して、新たな心臓発作の防止にビタミンEが、比較的短い期間の服用でも有効であろうことを示している。

新生児に対するビタミンKの安全性
    米国やその他西欧諸国では、脳障害や死につながる危険な出血状態にある新生児の出血性疾患を予防する為、ビタミンKの注射を行う事が常時行われている。数年前、英国で行われた予備的な疫学調査のデータから、出生時にビタミンKの注射を受けた子供達は、白血病や小児ガンになる可能性が高くなることが示唆され、この処置の安全性について疑問がもたれた。しかし1996年に発表された、ドイツ5)や英国6)を含んだより包括的な研究では、ガンになるリスクの増大について立証する事実は出なかった。
    1996年における新しい研究成果と過去に行われた研究を併せ考えると、新生児に対するビタミンK注射の安全性に関するいろいろな懸念は解消されるはずである。

喫煙とビタミン
    人々が喫煙する時、それは単にタバコを燃やしているだけではない。彼等は同時に身体に備蓄されている防御的抗酸化栄養素、例えばビタミンCやビタミンEをも燃やしているのである。1996年には、喫煙とビタミンの必要性に関連する重要ないくつかの相互作用について、科学者の理解を深める事に役立ついくつかの研究が完了した。
    デンマークの研究では、禁煙後数週間で血中ビタミンC濃度が急激に上昇する事が示されている7)。カリフォルニア大学で行われた試験管内の実験では、タバコの煙に曝露したヒト血漿中のビタミンEの量 が顕著に減少したことが示されている8)。ミュンヘン大学の研究者によって行われた研究では、喫煙によって引き起こされるある種の細胞性傷害が、ビタミンCの通 常の補給で回復される事が立証されている。9)

 

冠動脈疾患の患者に対するビタミンE投与の効果
(ケンブリッジ心臓抗酸化栄養素研究)


非致死性心筋梗塞及び心臓血管系疾患による死亡に関するリスクを共に見た場合 47% 低減(統計的に有意)
心臓血管系疾患による死亡のリスク 18% 低減(統計的に有意でない)
非致死性心筋梗塞のリスク 77% 低減(統計的に有意)


出典:Nigel G Stephens et al. Lancet 347(9004): 781-788(23 Mar. 1996)

 
 
ビタミン・ワンポイント情報
パンテノール(プロビタミンB5
生体内では、パントテン酸として、3大栄養素である炭水化物、たん白質、脂肪の代謝に必須である。

★毛髪の健康維持に一役 
次の様な効果があります。保湿、枝毛防止、損傷回復、つや、光沢、張りを保つ。
リンスの有無によるパンテノールの毛髪損傷回復効果を写真1及び2に示しました。いずれも良好な結果 です。 

写真1

パンテノール処理後洗い流した場合のパンテノールの損傷回復効果
上段:未処理毛髪。被験毛は皮脂によっておおわれていたことが確認されている。 
下段:パンテノールの3〜5%溶液処理後、洗い流す。
(10分間浸漬後、ぬるま湯で洗い流す。)


写真2

パンテノール処理後洗い流さない場合のパンテノールの損傷回復効果
上段:未処理毛髪。被験毛は皮脂によっておおわれていたことが確認されている。
下段:パンテノールの5%溶液処理後、洗い流さない。

Driscoll W.R., Drug Cosm Ind., 116, 42(1975) 

〈学会情報〉
●XVIII IVACG Meeting on Sustainable Control of Vitamin A Deficiency:Defining Progress Through Assessment, Surveillance, and Evaluation 
Cairo, Egypt
9月22〜26日 
●第51回日本栄養・食糧学会大会  教育講演 5月16日 
1. 「脂質の過酸化反応を生体における反応が起きる場で考える―抗酸化酵素と抗酸化剤の防御機構をどう考えるべきか―」  二木鋭雄氏(東京大学先端科学技 術研究センター)
2. 「活性型ビタミンとホルモンの作用機序を核における作用機構から解明する」  加藤茂明氏(東京大学分子細胞生 物学研究所)
3. 「疫学の成果を如何に栄養学は利用すべきか」
田中平三氏(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
シンポジウム 5月17日 
    1. ビタミン機能の分子生物学的研究―最近の進歩 
    2. 食品のおいしさ―栄養と風土から考える
    3. Food Based Dietary Guideline 
―新しい食生活指針に関する世界の動向と日本の対応―     4. 脂肪酸栄養の現代的視点
事務局 Tel:03-5814-1440

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