2002年2月 No.105

日本ビタミン学会第54 回大会を主催するにあたって

東邦大学医学部大橋病院 教授 橋詰 直孝

〈はじめに)

ビタミンという名称は生命に必要なアミンという意味なので基調テーマは「ビタミンと生命の輝き」としました。最近ビタミン学の研究は著しい進歩があり、専門外であると理解し難い面もありますので演者には分かり易く解説して下さるようお願いするつもりです。そして、会場が分散すると聞きたい講演も聞けないことがありますので大ホールに一同に集まっていただきディスカッションをするように試みました。その結果、一般演題はポスター発表となってしまいましたがポスターを軽んじている訳ではありません。12 題を厳選し大ホールで発表していただきます。以上が本大会の特長です。

〈要旨〉
口腔白板症は口腔がんを発症す日本ビタミン学会第54 回大会を平成14 年4 月25 日(木)、26日(金)に開催いたします。例年より早いですが5 月以後ですとサッカーのワールドカップでホテルが満室のため早くなってしまいました。場所はこまばエミナースで渋谷駅から電車・バス・タクシーをご利用いただけますが、混雑しますので30 分位みておいて下さい。
プログラムは別紙に示します。第1 会場で第1 日目は午前中にビタミンB 研究委員会からのシンポジウム、特別講演Tと教育講演Tが行われます。午後から総会の後に学会賞授与式、学会賞受賞講演、脂溶性総合研究委員会のシンポジウムが行われます。
午後6 時30 分からダイアモンドの間で懇親会を行います。ボニージャックスの出演をお願いしていますので奮ってご参加下さい。第2 日目は午前中に日本ビタミン標準化検討協議会報告、ビタミンC 研究委員会のシンポジウム、基調講演の後ポスター120題から本大会の運営委員により厳選されたポスター発表12 題があります。午後からは特別講演U、教育講演U、そして(社)ビタミン協会、(社)日本栄養・食糧学会、日本サプリメントアドバイザー認定機構の協賛でパネルディスカッション「ビタミンサプリメント」が行われます。これには日本サプリメントアドバイザー認定機構の受講単位(5 単位)が取得できます。
また、第U会場のポスターセクションは第1 日、2 日両日開催されていつでもポスターがみられるようになっております。質疑応答の袋が備えてあります。

今回は初めての試みとして平成14 年4 月27 日(土)に日本ビタミン学会第54 回大会関連市民公開講座を産経新聞が主催で開きます。テーマは「ビタミンと生命いのちの輝き―ビタミンとスキンケアー」で場所はサンケイホールで日時は平成14 年4 月27 日13:00 ―16:20 です。4 月25 日、26 日、27 日と長くなってしまいますが多くの方々のご参加をお待ち申し上げております。



日本ビタミン学会第54 回大会案内
基調テーマ「ビタミンと生命の輝き」/特別講演・シンポジウム等の予告
大会委員長 東邦大学医学部教授 橋詰 直孝
東京都目黒区大橋2- 19- 5 Tel.03- 3485- 1411 :Fax.03- 3467- 5791


○基調講演 座長 小野 繁氏(岩手医科大学)
青木 継稔氏(東邦大学 学長)「21 世紀の生命科学と『自然・生命・人間』について」
○特別講演 座長 加藤 茂明氏(東京大学分子細胞生物学研究所)
T.浅島 誠氏・有泉 高史氏(東京大学大学院総合文化研究科生命環境科学系)
「脊椎動物の未分化細胞からの臓器形成と形づくりにおけるレチノイン酸の役割」
○特別講演 座長 田中 信夫氏(清風荘病院)
U.阿部 俊昭氏(東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座)
「葉酸の神経管欠損症予防国家プロジェクト」
○教育講演 座長 美濃 眞氏(清恵会病院)
T.糸川 嘉則氏(福井県立大学看護福祉学部)「私のビタミン研究歴」
○教育講演 座長 末木 一夫氏(日本国際生命科学協会)
U.Dr.Annette Dickinson (Council for Responsible Nutrition )
「米国におけるビタミンサプリメント教育の現状」
○シンポジウム
1 .ビタミンB 研究委員会 座長 清水 祥一委員長、鏡山 博行氏(大阪医科大学)
テーマ:「B 郡ビタミンはどのように働くか」
・谷澤 克行氏(大阪大学 産業科学研究所)
「新しいペプチド・ビルトイン型キノン酵素:その所在と構造、触媒機能、生合成機構」
・江崎 信芳氏(京都大学 化学研究所)
「鉄硫黄クラスター形成に関わるピリドキサル酵素の機能、構造、触媒機構」
・虎谷 哲夫氏(岡山大学 工学部)「ビタミンB12 酵素の立体構造と精密触媒機構」
・三浦 洌氏(熊本大学 医学部)「フラビン酵素における反応制御の構造的基盤」
2 .ビタミンC 研究委員会 座長 村田 晃委員長、倉田 忠男氏(お茶の水女子大学)
テーマ:「生命システムにおけるビタミンC 」
・重岡 成氏(近畿大学 農学部)
「植物はなぜビタミンC を多く含むのか」−光・酵素毒防御系への関与
・堀尾 文彦氏(名古屋大学大学院 生命農学研究科)
「アスコルビン酸合成不能ODS ラットを用いたアスコルビン酸欠乏初期に変動する遺
伝子発現の解析」
・山本 格氏(岡山大学 薬学部)
「アスコルビン酸の新機能についての考察」−サイトカイン系との相互作用について
3 .脂溶性ビタミン総合研究委員会座長舛重正一委員長、玉井浩氏(大阪医科大学)
テーマ:「脂溶性ビタミン研究の最前線」
・影近 弘之氏(東京大学大学院 薬学系研究科)「ビタミンA の機能とその制御分子」
・西井 易穂氏(メディカルカルチュア兼東京農業大学)
「ビタミンD 分化誘導作用がもたらした創薬研究」
・玉井 浩氏(大阪医科大学 小児科)「ビタミンE 輸送タンパク質の機能」
・原 久仁子氏(エーザイ株式会社 薬物応用研究部)「ビタミンK と骨代謝」
・山本 順寛氏(東京大学大学院 工学系研究科化学生命工学専攻)
「コエンザイムQ の抗酸化作用」
○パネルディスカッション「ビタミンサプリメント」座長:五十嵐 脩氏(茨城キリスト教大学)
・大浜 宏文氏(NNFA JAPAN )・森重 勉氏(大塚製薬 梶j
・浜野 弘昭氏(ダニスコカルタージャパン)
協賛:(社)ビタミン協会、(社)日本栄養・食糧学会、
日本サプリメントアドバイザー認定機構(日本臨床栄養協会)
○日本ビタミン標準化検討協議会報告 座長 渡辺 敏明氏(山形大学 医学部)
渭原 博氏(東邦大学医学部大橋病院)「葉酸とビタミンB12 の測定法と基準値」
○一般講演はポスターになります。
□大会事務局 東邦大学医学部付属大橋病院 臨床検査医学研究室 渭原 博
TEL :03- 3468- 1251 ;FAX :03- 3468- 1906
□問い合わせ先 日本ビタミン学会事務局
TEL :075- 751- 0314 ;FAX :075- 751- 2870
E- mail address :vsojkn@mbox.kyoto- inet.or.jp

 


 

    ルテインとAMD

心疾患やがん、加齢性眼疾病などの生活習慣病は、高齢化に伴い増加している。この生活習慣病の増加により、栄養学を含め予防の観点からの研究が進行している。近年、ルテインやゼアキサンチンが加齢黄斑変性(AMD )や白内障などの深刻な眼疾病のリスクを低減させることが証明されつつある。AMD は高齢者における失明の原因の一つであり、視覚障害を引き起こす。いくつかの研究から、アメリカで1,000 万人に軽度の症状あり、45 万人またはそれ以上の人がAMD 進行による障害を負っている可能性が推測されている。AMD 発症リスクは加齢により増加し、また男性より女性のリスクが高い。AMD の治療法は未だ確立されていない。このため、予防や進行を抑制する方法の研究が進められている 。

ルテインとAMD (加齢黄斑変性)との関連については、本ニュースレターでも紹介してきた(VIC ニュースレターNo.98,99, 101,103 参照)

ルテイン・ゼアキサンチン摂取量(5 分位)と眼疾病発症リスクのオッズ比

ルテインとは?

・カロテノイド中のキサントフィルの一種で、野菜、果物、植物に豊富に含まれている。とくに、ケール(キャベツの一種)、ほうれん草、ブロッコリーなどに多く含まれる。
・ルテインは同じカロテノイドの一種であるゼアキサンチンとともに網膜の黄斑部に存在する。
・β- カロテンとは違い、ビタミンA 活性はないが、以下の重要な生理活性をもっている。
- 網膜や黄斑部に障害を引き起こす恐れのある青色光を吸収
- 抗酸化作用:フリーラジカルを消去

分子式:C40H56O2
構造式

 

ルテインの生物活性

サプリメントから摂取したルテインは吸収されやすく、速やかに血中濃度が上昇する。
吸収されると、眼などの組織に貯蔵される。血漿中濃度を上昇させるには最低2.4mg/日の摂取が必要である。またこれまでの研究で、摂取量が40mg/日までは副作用なしで眼疾患患者の視力の改善などの効果が確認されている。

今後のルテイン研究

ルテインについての研究は大きく進歩したが、今後も各分野でのさらなる研究が必要である。
動物実験でルテイン欠乏によるAMD 発症の有無や、ルテイン投与による治療効果などの測定が可能であろう。更にルテイン推奨摂取量範囲の確定やルテイン摂取による効果を明確にするためにもヒト介入試験が必要である。

(JAMA Vol.4,No.2 より)

 

ルテイン摂取と結腸がんの関係
(Martha L Slattery ら、Am J Clin Nutr 2000;71:575- 82 より)

食事からのルテインやその他のカロテノイド摂取と結腸がんとの関連を調査するため、患者1993 名・対照2410 名を対象に研究を行った。
その結果、ルテイン摂取量は男女ともに結腸癌と逆相関関係にあった。
対象者のルテイン及び各カロテノイド摂取量を下記の表に示す。

 

 


葉酸強化食品がNTD 発症に及ぼす影響(アメリカ
(Honein MA ら,JAMA 2001;285:2981- 2986 )

神経管欠損症(NTD )児出生における葉酸強化食品の影響を評価するため、アメリカFDA が穀類製品への葉酸強化を義務化する前後でNTD 発症調査を行った。
アメリカFDA は1996 年3 月、穀類製品の栄養価を高めるため、葉酸の強化を正式に認可、1998 年1 月より義務化した。

調査期間と対象:1990 年1 月〜1999 年12 月までの間に、アメリカの45 の州とワシントンDC で出生(生存者)した際の出生証明書により調査を行った。

結果:出生証明書によるNTD 疾患の罹患は、葉酸が食品強化される前は出生数10 万人あたり37.8 人だったが、葉酸の強化が義務化された後に妊娠した女性の子供では30.5 人に減少した。これは19 %減少したことになる。また、同期間において、出生前の診断または中絶による影響について把握するため、妊娠7 ヶ月以降に診断を受けた者または出生前の妊婦ケアを受けなかった者が出産した子供のNTD 罹患率も調査したところ、出生数10 万人あたり53.4 人から46.5 人に減少した。妊娠後7 ヶ月以降は、NTD と診断されても中絶することはまれであり、出生前診断や中絶によるNTD 罹患率への影響は少ないと考えられる。


 
 
 

新ビタミンC 所要量の提案(アメリカ)
(Mark Levine ら、Proc.N.Acad.Sci.USA Vol.98 No.17 :9842- 9846 )

最近アメリカでは、成人男性の所要量を基に、成人女性のビタミンC 所要量が75mg/日と設定された。
本研究では、健康な女性を対象に欠乏- 飽和研究を行い、ビタミンC30 〜2,500mg/日を投与した。投与量と血漿定常状態濃度との関連をみると、図1 のような曲線となった。図2 には各細胞内濃度を示した。内因性の酸化ストレスバイオマーカーである、血漿・尿中F2- イソプラスタン、F2- イソプラスタンの主な代謝産物の尿中レベルはビタミンC 量による変化はなく、健康な若年女性においては、ビタミン投与量は内因性脂質過酸化物に影響しなかったと示唆できる。FNB (Food and Nutrition Board;食品栄養審議会)のガイドラインによれば、本研究結果は若年女性の所要量を90mg/日まで増加するべきであることを示唆している。
図1 各投与量における血漿ビタミンC 濃度(女性) 図2 各投与量における循環細胞内のビタミンC 濃度

ヒト赤血球細胞膜でのアスコルビン酸フリーラジカルの再生
(Free Radical Biology &Medicine,Vol.31,No.1 pp.117- 124,2001 )

 

〈要旨〉細胞質膜ではアスコルビン酸がα- トコフェロールを再生することにより脂質の過酸化を防止しており、細胞質膜におけるアスコルビン酸フリーラジカル(AFR )の還元はアスコルビン酸を保存する効率的なメカニズムである。赤血球ゴースト膜はAFR 存在下でNADH を酸化することが明らかになっている。本稿では、AFR 還元酵素がアスコルビン酸酸化酵素によるアスコルビン酸の酸化を防止すること、およびゴースト膜がAFR の定常状態濃度を蛋白・NADH 依存性に低下させることから、ゴースト膜のNADH 酸化作用がAFR 還元酵素によるものであることを報告する。AFR 還元酵素はNADH およびAFR (〈2 μM )の両者に対して見かけ上高い親和性を有する。透過性の高いゴースト膜で測定すると、還元酵素には内膜型活性(両基質部が細胞質膜面にある)と、細胞内NADH を用いて細胞外AFR 還元を媒介する膜貫通型活性がある。しかし、膜貫通型活性はゴースト膜で測定される総活性の約12 %にすぎない。また、ゴースト膜のAFR 還元酵素活性は、界面活性剤Triton X- 100 に対し感受性かつカテプシンD による酵素消化に対し不感受性であり、これによりNADH 依存性フェリシアン化還元酵素と区別することができる。このNADH 依存性AFR 還元酵素は細胞質膜内面の重要部位におけるアスコルビン酸の再生機能を果たしている可能性がある。

  図2 表面を剥離したゴースト膜のNADH- AFR とNADH- フェシリアン化還元酵素活性におけるTritonx- 100 の影響

 

ルテインとアテローム性動脈硬化症の進行

(Dwyer Jh ら,Circulation 2001;103:2922- 2927 )

以下の3 つの研究@疫学的研究A培養実験B動物実験からルテイン多量摂取は、アテローム性動脈硬化の進行を抑制することが示唆された。

@疫学的研究: 40 〜60 歳の男女480 名を対象に、血漿中ルテイン濃度と頚動脈の内膜- 中膜肥厚(IMT )の増加との関連を調査した結果、逆相関関係であることが判明した(図1 )。研究期間は18 ヶ月。

図1 血漿ルテイン濃度とI MT 増加度との逆相関関係 (□:男性248 名、◇:女性214 名)

 

A培養実験: ヒト大動脈壁の内皮・平滑筋細胞を用い、培養実験にてLDL 酸化におけるルテインの影響について研究を行った。以下の2 つの方法にて化学走性を分析:遊走単球は顕微鏡にて測定

A .細胞に各濃度のルテインを加え一晩培養後、各細胞に同濃度のLDL をそれぞれ加え8 時間培養した。

図2 A LDL 酸化と単球化学走性におけるルテインの影響 (*p <0.05)

 

B .LDL に各濃度のルテインを加え4 時間培養後、細胞を加えさらに8 時間培養した。

図2 B LDL 酸化と単球化学走性におけるルテインの影響 (*p <0.05)

 

結果: ルテイン濃度の増加に伴い、用量依存的に単球の化学走性が減少。特にルテインで前処理をした細胞において、化学走性が劇的に抑制された。単球の遊走を抑制するルテイン濃度100nmol/L は、ヒトHDL 中のルテイン濃度とほぼ同程度である。

B動物実験: アポE 欠損マウスとLDL 受容体欠損マウスにルテインを補給すると、動脈病変が減少した。
〈アポE 欠損マウス〉
コントロール食摂取群(chow di et )7 匹
コントロール食(chow diet )+ルテイン(0.2 %)摂取群9 匹
8 週後に大動脈弓の病変サイズを測定:コントロール群(9.9 ±1.1 ×106μm2)と比較するとルテイン摂取群(5.5±1.5 ×106μm2)は44 %減少していた。(図3 )

図3 各アポE 欠損マウスの大動脈弓における病変のサイズ

 

〈LDL 受容体欠損マウス〉
アポE 欠損マウスとほぼ同様の実験(コントロ−ル食にWestern diet を使用)を行った結果、コントロール群(38 ±10 ×106μm2)と比較して、ルテイン摂取群(22±5 ×106μm2)で43 %の減少がみられた。