2000年10月 No.100 |
ビタミン広報センター設立20周年・ニュースレター第100号発行を迎えるにあたり |
−ニュースレター第100号発行を迎え−
東京大学名誉教授 細谷憲政 ビタミン広報センターのニュースレターが100号の記念号を発刊することを、お慶び申し上げております。
ビタミン研究の最前線に期待する
最近のビタミン研究の進歩には、驚くべきものがある。特に、疾病予防におけるビタミンの役割の解明は、新しい研究の進展とともに、極めて興味深い。従来、研究が進むべきところまで進んだ観があった水溶性ビタミンの分野でも、ホモシステイン血症と動脈硬化との関連が明らかにされ、ビタミンB6、B12、葉酸の動脈硬化予防効果が疫学的、実験的にも証明されつつあり、従来の動脈硬化発症のメカニズムとは異なる新しい機構が提唱され、重要な知見といえよう。また、脂溶性ビタミンの分野では、ビタミンE、カロテノイドにビタミンCも加えた抗酸化性因子の機能や活性型ビタミンA、Dの分子レベルでの機能の解明、ビタミンEの新しい代謝経路の発見とそれら代謝物の生理作用の解明など、常に新しい発見があり、将来の研究の飛躍を期待させるものがある。このように、ビタミン研究の開始から既に1世紀を経たが今も新しい進展が継続しており、人類の健康という観点で、今後の研究に期待したい。 |
−ニュースレターから見たビタミン研究の進歩−
東邦大学医学部教授 橋詰直孝 1981年9月ニュースレターが刊行され、20年になる。私が初めてニュースレターに書いたのは、1985年第21号でアルコールとビタミン欠乏症というタイトルであった。その頃は、栄養素としてのビタミン以外に抗酸化作用を有するビタミンの黎明期であった。この20年間のビタミンの研究の進歩は著しく、まだ未知の部分もあるがビタミンの抗酸化用は確定的なものとなった。最近では先端技術を駆使して、ビタミンA、Dに代表されるようなビタミンに、細胞間情報伝達作用があることが判明した。これらのことについては103名のビタミン研究者が、20年間に渡りニュースレターに書いている。ニュースレターは、日本ビタミン史上の一部として、残ることを望む次第である。そのためには、近代ビタミン歴史館などの創立も各国の人々と手を組んで考えても良い時代に入ったような気がする。
−ビタミン学の新しい飛躍−
いつの世にも、ヒトは病気に対する恐怖心を持ち続けてきました。しかし、その病気の対象は時代とともに変化して行きます。古くは流行性の細菌感染症やビタミン欠乏症であったものが、最近ではエイズやがんになっています。その時代における医学の進歩は、次々と恐怖の対象を変え、今、先進国では動脈硬化に併う心臓病や脳疾患さえも、その対象となってきました。昔しの50年生きれば長命といわれた寿命は、今や2倍の100年になろうとしています。
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VICニュースレター第100号発行によせて |
この度、本ニュースレター第100号発行において、これまで、当センターの活動をご支援くださった先生方より、お言葉を頂戴致しましたので、掲載させていただきます(五十音順)。今後ともご指導、ご鞭撻の程、何卒よろしくお願い申し上げます。
(肩書きにつきましては、ご本人の原稿に基づいております。) 藤田保健衛生大学教授 伊藤宜則
北海道大学歯学部教授 坂本 亘
大阪医科大学教授 玉井 浩
国立がんセンター研究所支所 津金昌一郎
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女子栄養大学教授 辻村 卓
貴センター設立20周年、ニュースレター第100号発行おめでとうございます。栄養学部の教員として食生活に関する実験を続け、今は主として「野菜中ビタミン・ミネラル含有量の通年変化」の仕事をしております。今秋発表予定の五訂食品成分表の基礎データとしての面を強く意識し、1988年頃から今日まで実験を続けてまいりました。私どものこのデータを実際に使うかたは(管理)栄養士、病院、給食センターなどの職員のかたがたが主になると思います。学会活動でデータを発表することは大切なことですが、それと同時にビタミン広報センターの機関紙にわかりやすく紹介していただくことや各地方での保健学術講演会(都道府県栄養士会主催への協賛)の開催などは実験内容の説明の場としてはこれ以上のものはなく、貴センターの活動に深い敬意を払っています。今後貴センターの各種活動実績がさらに発展するよう期待して御挨拶といたします。 静岡産業大学教授 富田 勲
宮崎大学助教授 富田純史
宇都宮大学教授 二木鋭雄
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国立健康・栄養研究所 平原文子
〈ヘルスハザードの汚染に対してVICの活動へ益々の期待〉 私達の周囲には健康に関するカタカナ言葉が多く情報は氾濫しており、健康への関心の強さが伺えます。情報の中でもS to S(専門家から専門家へ)やS to M(専門家からマスコミを通じた一般の方へ)など知見の流れには幾つかありますが、方向が明らかにされないままに情報が発信されています。現在はむしろヘルスハザードを招いております。これからは健康維持・増進の指導・管理は個人の時代です。発足二十周年を向かえられこれまでの正しい最新の研究情報の提供の貢献は大きいものがあります。今後もニュースレターを始め、教育講演などの活動においてもS to S及びS to Mに対しても期待されてますので是非、ご継続を希望します。 九州大学医学部名誉教授 廣畑富雄
東京農業大学教授 舛重正一
清恵会病院 院長 美濃 真
東北大学大学院教授 宮澤陽夫
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岐阜大学名誉教授 椙山人間栄養学研究センター長 武藤泰敏
此の度びVICニュースレターが100号を迎えたことは誠に喜ばしい限りである。「ビタミン専門委員会」の諸学兄に心から御礼を申し上げる次第である。 100号はいわば“中〆め”といえるかもしれない。「人生は定年からが面白い」「勉強は定年からが面白い」をモットーにしている者にとって、これからのVIC、いやビタミン学の将来構想は?どのような方向に向って船出をし、そのゴールは何か。生活習慣病の1次予防にとって、ビタミン学の役割は何んなのか――熟考するよい機会と思っている。 佐賀大学農学部教授
女子栄養大学大学院教授 安田 和人
山形大学医学部助教授 渡辺敏明
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「ビタミン広報センター20周年記念講演会」開催報告ビタミン広報センター |
おかげさまで、当センターは1981年設立以来、今年で20周年を迎えました。20周年を記念致しまして、2000年6月16日、有楽町朝日ホールにおきまして「ビタミン広報センター20周年記念講演会」を開催致しました。
講演会では、開会挨拶として、当センター専門委員の一人である細谷憲政氏(東京大学名誉教授)より、現在の日本での「健康」という概念や今後の課題などについてお話いただきました。五十嵐脩氏(茨城キリスト教大学教授)には各ビタミンの効能や潜在性ビタミン欠乏症が懸念されている摂取状況、年施行された第6次改定栄養所要量(食事摂取基準)についてご説明いただきました。また松橋正和氏(東邦大学医学部教授)には、近年日本人にも増加している加齢黄斑変性(AMD)とルテインについて、吉川敏一氏(京都府立医科大学教授)にはビタミンEと心血管系疾病予防の最新の研究結果などについてご講演いただきました。 本講演会では海外からも3名の演者をお招きしました。ドイツのボン大学教授Klaus Pietrzik氏には、B群ビタミンと心血管系疾病予防について、特にホモシステインが重要な因子であると認識されてきたことを中心にご講演いただきました。また、オハイオ州立大学教授SK Clinton氏には、トマト色素として注目をあびているリコペンと疾病予防―特に前立腺癌をはじめ、各部位の癌発症リスクとの関連―について、ライナス・ポーリング研究所長Balz Frei氏には、ビタミンCと疾病予防、特にビタミンCの酸化抑制作用による疾病予防や心臓病との関連を中心にご講演いただきました。 |
最後には、当センター設立当初の専門委員であられた東邦大学名誉教授
阿部達夫氏より、日本におけるビタミン研究の始まりなのどのお話をしていただきました。
(各講演内容は講演録としてまとめましたので、ご参照していただきたいと存じます。尚、講演録についてのお問合わせは当センターまでご連絡下さい。)
当日は約400名と多数の方にご出席いただき、また長時間に渡ってご静聴いただきましたこと、厚く御礼申し上げます。今後も、ニュースレターの発行をはじめ、ビタミン・カロテノイド等の正しい情報を普及し、皆様のお役に立てるような活動を進めていく所存でございます。ご指導ご鞭撻の程、何卒よろしくお願い申し上げます。 |
葉酸摂取による血中ホモシステイン濃度の減少 |
試験地:アメリカ
被験者:虚血性心疾患と診断された患者75名(45-85歳、男女) 試験計画:DBT法(図1 朝食シリアル摂取量:30g(ビタミンC、E、B1、B2、B6、パントテン酸、ナイアシン、鉄、亜鉛の1RDA量とビタミンAのRDAの25%量、ビタミンDのRDAの10%量を含有) A群(24名):葉酸127μg強化 ビタミンB6 1.8mg B群(25名):葉酸499μg強化 ビタミンB12 6.1mg C群(26名):葉酸665μg強化 結 果:葉酸強化量に応じて、血中葉酸濃度が上昇すると共に、血中ホモシステイン濃度は減少して、逆相関濃度依存的傾向を示した。例えば、葉酸665μg強化食で、血中葉酸は105.7%増加、血中ホモシステイン濃度は14.0%減少 |
図1 試験計画
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葉酸200μg摂取で血中ホモシステイン濃度上昇を抑制試験地:アメリカ 被験者:79名(1日に100〜400μgの葉酸を強化したシリアルを食することで、血中ホモシステイン濃度の上昇を抑制している集団) 試験計画:対照群:10μg/日以下の葉酸が含まれている朝食シリアルを食する 試験群:200μg/日の葉酸が含まれている朝食シリアルを食する 結 果:200μg/日の葉酸を含む朝食シリアル摂食群で、血中ホモシステイン濃度の正常域を維持 |
MAFFからの葉酸に関する最新研究の報告イギリス栄養財団(British Nutrition Foundation)は、MAFF(農水食品省)から、下記の葉酸に関する5つのプロジェクトを遂行するようにとの指示を提案した。 1)食事由来葉酸、ホモシステイン、内皮機能について: メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)遺伝 子発現の相互作用に関する研究 2)血中ホモシステイン濃度低減効果の介入試験、食事由来葉酸とサプリメントからの葉酸摂取の比較 3)安定放射性同位体マススペクトル法による、食品中の葉酸の生物学的利用度の定量的研究 4)合成葉酸は体内葉酸レベルを上げるのに食事由来葉酸より効果的であることについての研究 研究 |
レチノイド実験用モデルのサルを用いたビタミンAによる催奇形成とリスク評価 |
ビタミンA過剰による、胎児の催奇形成についての臨床的・疫学的データは少ない。そこで、妊娠期における安全な摂取量を想定するために、適切な動物モデルの使用が望まれる。本研究では、ヒト胎児の発達とよく似ている経過を示すため、使用するにふさわしいと証明されている、cynomolgus
monkey(Macaca fascicularis)を用いた。このcynomolgus macaque(マカク)は13-シス-レチノイン酸(13-シス-RA)による催奇形成における研究に適している。
用量と投与期間 ビタミンAパルミテート:GD(妊娠期間)16〜27日間 コントロール群:15匹 7500IU/kg投与群:25匹 20,000IU/kg投与群:26匹 40,000IU/kg投与群:8匹 80,000IU/kg投与群:29匹 13-シス-レチノイン酸:GD(妊娠期間)16〜27日間 コントロール群:6匹 0.5mg/kg投与群:19匹 5.0mg/kg投与群:7匹 |
結果
〈胎児への影響〉 サル妊娠中における原腸胚形成期や器官形成期のビタミンA高用量投与試験では、用量依存的に未熟児や胎児奇形など、発育上での悪影響がみられた(表1)。組織欠損のほとんどは妊娠早期でみられた。(GD18-30;62%、GD31-45;28%) レチノール誘発性奇形の最初のターゲットは頭蓋顔面の部分である。外耳は最も頻繁にみられ(8つの奇形のうち6つ)、方側または両耳の欠損がみられた。これらの欠損は咽頭の口蓋弓が2段階によっておこり、第一段階は耳輪、耳輪脚、第二段階は耳介隆起、対耳輪脚、小葉、対耳珠である。外耳道の欠損なども、低い発症率で観察された。その他、頭蓋顔面で影響がみられる部位は、下顎形成不全や頬骨の形成不全・異形、鼓室輪(形成不全)、中耳骨(槌骨・砧骨・鐙骨の異形)である。また、目(開眼、形成不全)、上顎骨(形成不全)、鼻形成不全、口蓋弓・口蓋裂、蝶形骨翼などもレチノールによる中毒症状でよく観察される。 〈13-シス-レチノイン酸投与による影響〉 13-シス-レチノイン酸の高用量(5mg/kg)により、発育への悪影響がみられた。妊娠後33-35日間に未熟児の有意な増加(43%)がみられ、さらに4匹全ての生存している胎児には、1つあるいはそれ以上のレチノイド胚胎病による奇形が観察された。(表2) |
ビタミン広報センターが1981年に発足すると同時に、ニュースレターが定期的に発行され、1986年にはISSN番号も取得してきました。
日本でのビタミン・カロテノイドの最新研究や世界で発表されたビタミン・カロテノイドの紹介を中心に、最近は栄養に関する国内外の学会情報、多価不飽和脂肪酸、紫外線吸収剤の記事も掲載されております。 今号で100号の刊行となりますが、これだけ定期的に長く継続されてきましたのは、日本ビタミン学会を中心とした諸先生方の執筆ご協力、その他陰からのご支援のおかげと存じております。 阿部達夫、故稲垣長典専門委員の諸先生方、歴代ビタミン広報センター長の伊藤仁氏、植木宜彦氏、また法専(旧姓:堀岡)知子氏、遠山典子氏の在任時のご尽力に感謝しております。 今後とも、ますます内容を充実して、ビタミン広報センターの活動趣旨に基づいたニュースレターを発行いたす所存でございます。 (なお、101号からは、インターネットでの配信が主になる予定でございます。) ビタミン広報センター センター長 末木 一夫 海老沼 春世 |
お願い
ニュースレターの宛先の変更、削除につきましては誠にお手数ですが、宛て名シールの番号を明記の上、郵便又はFaxにてご連絡下さいます様お願い申し上げます。 |
ビタミン広報センター(略称 VIC)は、国内外に於ける最新のビタミン研究の成果を科学的に正確に保健、栄養関係者および消費者の皆様に提供しております。当センターは1981年に設立されました。 大田区大森北1−6−8 〒143-0016 Tel(03)5763−4119 Fax(03)5763−4121 |