1997年7月 No.87

第49回日本ビタミン学会大会のビタミンE関連の 
研究発表を振りかえり見て

                                    日本ビタミン学会長           美濃  真
                                    大阪医科大学名誉教授 

α-TTP  α-トコフェロール(ビタミンE)輸送タンパク質 
cDNA  complementary DNA, RNAと相補的な塩基配列をもつ1本鎖DNA ミスセンス変異 突然変異 
STZ  ストレプトゾトシン 動物に実験的に糖尿病をおこすことができる抗生物質
ネクローシス 細胞壊死 アポトーシス 細胞のプログラム化された自然死 
PKC  プロテインカイネースC
PC  ホスファチジルコリン 
PE  ホスファチジルエタノールアミン どちらも細胞膜を構成するリン脂質
PGE2  プロスタグランディン2 ケルセチン 植物に含まれるフラボノイドの1種、大豆やトマトの葉などに含まれ、抗酸化力がある。 
    ビタミン学会賞受賞の新井のα-TTP(α-Tocopherol transfer protein)の業績は世界に誇りうるものである。α-TTPのリガンド結合能はビタミンE同族体の生物活性と一致する。また、ラットα-TTPのcDNAとプローブから得られたヒトα-TTPのcDNAで、ビタミンE単独欠乏症のDNA変異が証明され、原因遺伝子の局在も証明された。また、横田の軽症の症例のミスセンス変異のHis- - - Gln(101)から101番のヒスチジンが生理活性に重要であるとの新しい認識を得た。α-TTPの別の機能として、α-Tocの細胞外への分泌の役割、ならびにα-Tocの体内濃度の調節など新たな観点が示された。一般演題でのα-TTP機能に関連するものでは、2-ambo-α-Toc投与時のSRRとRRR臓器間での分別の差異が金子らにより報告され、また、金らはSTZ糖尿病ラットでα-TTP発現の増加を報告したが、α-TTP発現はさらに検討され、それらの観点からもα-TTPの意義が集積されるものと思える。また、ゴマがα-Tocの吸収分別を促進すると山下らによって報告されたが、α-TTPとの関係は不明である。
    ビタミンEの機能の基本は抗酸化作用であることは周知の事実である。兼崎らは化学反応論的にラジカル消去反応速度をpH変動の面から検討している。多くの研究はフリーラジカル障害の抑制、防止の面から生理的なビタミンEの重要性を検討している。高橋らは細胞培養にて得られた高濃度ビタミンEを含むミトコンドリアをラジカル開始剤で処理し、高濃度のビタミンEはミトコンドリアのネクローシスは抑制するが、アポトーシスには影響を与えないと述べた。梅垣らはX線照射障害を8-OH-dG(8-hydroxy-deoxyguanine)とHNE(4-hydroxy-2-nonenal)の増加で観察し、先ずビタミンC、ついでビタミンEが減少することを認めた。これは8-OH-dGおよびHNEの変化と良く対応するという。また、佐藤らは高濃度酸素暴露は末梢神経のシナップス機能障害をきたすが、リン酸化後の顆粒蓄積が、顆粒の膜への融合障害によって伝達機能障害が生じることを、 
Ca++の増加、PKC活性の増加およびカテコールアミンのシナップス内での増加で示し、ビタミンE投与はこの変化を抑制したと報告した。宮沢らはアルツハイマー患者の脳機能障害は脂質変化とくにPCやPEのヒドロペルオキシドの増加があり、DHAが少ない特徴がある。脳のビタミンE値はPEのヒドロペルオキシドと逆相関するので、この脳障害は過酸化障害であることを示唆した。発ガン過程にフリーラジカル障害が関係するとの仮説の下に市川らはウレタン誘発肺ガンをODC(ornithine decarboxylase)の誘導で観察し、ビタミンEはその誘導を抑制することを示した。PGE2を介したシグナル伝達の抑制により、ODC誘導を抑制し、発ガンを抑制すると述べている。血液透析患者は動脈硬化症を発症しやすい。この理由として、池田らは透析後ではLDL中ビタミンEの減少があることを警告している。また、太田らは自然発症糖尿病ラットの水晶体、網膜中のビタミンE濃度は低く、これは組織の過酸化脂質量と逆相関しており、合併症発現臓器特異性と関係があると述べた。  
    赤ブドウ酒の消費が多いと、高脂肪、高エネルギー摂取に打ち勝って虚血性心疾患死亡が少ないというフレンチパラドックスの原因が赤ブドウ酒のフラボノイドであり、その抗酸化性による仮説を寺尾らはケルセチンを投与して証明しようとしている。ビタミンEの免疫能増強作用に関しては、森口は胸腺の未熟T細胞からのCD4サブセット発現がビタミンE栄養で増加することを証明した。八木らは老化にともない生じる学習、記憶障害が生来のビタミンE栄養による可能性を母親からのビタミンE栄養の違いで追及しているが、上記2演題がビタミンEの抗酸化機能とどのように係わるかは今後の課題である。
     漢方の四逆散が高濃度酸素暴露の肺のビ タミンEを増加させ、抗酸化的に作用する報告(市川ら)や、ビタミンE誘導体8HM(2,5,7,-trimethyl-8-hydroxymethyl-2-(4',8',12'-trimethyl-tridecyl)6-chromanol)の生物活性の報告(平原ら)および、最近ビタミンE生物効果で注目されているトコトリエノールのECDによる定量法(辻ら)など17題の演題で賑わった。 
ビオチン関連の発表から(文責 編集)
    最近のビタミン研究において、脂溶性ビタミンの研究が増えている中で、水溶性ビタミンではビオチンに関する発表も多い。今回のビタミン学会第49回大会において、ビオチンに関する発表は、飲料中のビオチンの安定性からビオチンの代謝、糖代謝にからむ糖尿病へのアプローチなど話題性も多かった。  
     その中で、ビオチン投与によりアトピー性皮膚炎の改善が認められる例があることから、ビオチン投与により尿中アミノ酸値の変動からその作用機能を解明しようとする報告があった。ビオチンによるアミノ酸の尿中排泄の変動は、結果的にヒスタミン産生を抑制し、アトピー性皮膚炎に対するビオチン投与が有効な場合の作用機序の一つであると考えられている。 
    ビオチンを6名の健常成人に就寝前に2mg経口投与し、翌朝採尿してアミノ酸40種、クレアチニン、尿酸、マグネシウムを測定している。採尿期間は、ビオチン投与前、投与後を各々連続10日以上とし、投与前、後に変動した物質について検討した。その結果、6例に共通した知見は得られず、ビオチンの有効性には個人差があるものと推察された。しかしながら、6例中2例でヒスチジンと1-Mヒスチジン/3-Mヒスチジンの増加は、不要なヒスチジンの排泄及びヒスチジンからの代謝バランスが1-Mヒスチジンに傾くことにより、ヒスタミンの産生を抑制し、アトピー性皮膚炎に対するビオチン投与が有効な場合の作用機作の一つであることが考えられた。

 
 

喫煙、アルコール習慣と血中β-カロテンレベルの関係 

−Antioxidant Vitamins Newsletterより−
    過去の研究において、煙草を吸う人や酒を多く飲む人達の間では、β-カロテンの血中レベルが低いことが示されている。しかし飲酒と喫煙は相伴っている場合が多いことが示され、これらの要因が、β-カロテンのレベルにそれぞれ独立して影響しているかどうかは明確でない。  
    この点を明確にするため、日本の東北大学薬学部の研究者達は、大規模な疫学調査の参加者の中から無作為に集めた1,902人の男性を対象に、血液サンプルと喫煙及び飲酒の習慣に関する情報を収集した。喫煙の血清β-カロテンに対する影響を、異なるアルコール摂取のカテゴリーの人達について調べ、またアルコールの血清β-カロテンに対する影響を、異なる喫煙カテゴリーの人達についてそれぞれ調べた。喫煙と飲酒は共に、量論的に、血清β-カロテンの減少に関係している。
この関係は、右図に示す様に、強度の喫煙者及び強度の飲酒者において、特に顕著に表れている。喫煙によるβ-カロテンレベルの減少は、三つのすべてのアルコール摂取のカテゴリーの人達(非飲酒者、以前の飲酒者、現飲酒者)において見られている。またアルコールの摂取によるβ-カロテンレベルの減少は、三つのすべての喫煙のカテゴリーの人達(非喫煙者、前喫煙者、現喫煙者)において見られる。 
    これらの結果は、喫煙及び飲酒がそれぞれ独自に、血清β-カロテンレベルに対して影響を持つことを示している。 
強度の飲酒者及び、強度の喫煙者における血清β-カロテンレベルの減少

[Reference] 
Akira Fukao,Yoshitake Tsubono, Mieko Kawamura et al, The Independent Association of Smoking and Drinking with Serum β-Carorene Levels among Males in Miyagi, Japan, Int J Epidemiol 25(2):300-306(Apr 1996)

 
 
 

糖尿病はビタミンCをより多く必要とするか?1)

−Vitamins Nutrition Research Newsletterより− 
米国では約800万人が糖尿病を持つと診断されている。また700万人にも及ぶ人達が、この病気を患っている可能性があるが、自覚をしていない。動物やヒトを対象とした研究で、ビタミンCと糖尿病の間に何らかの関係が存在することが示唆されている。  
     いくつかの研究において、糖尿病を持つ人々のビタミンCレベルは、この病気を持たない人々に比べて低いことが見られている。この差は、食事からのビタミンC摂取が少ないということに起因するものでは無い様に思われる。事実、糖尿病患者は通常、非患者よりも多くのビタミンCを摂取している。未だ結論が出せ得る状態ではないが、ビタミンCの補給が糖尿病に対して有効であることがいくつかの研究で示されている。
    異なる23件の研究について解析を行った結果、ビタミンCの補給は、糖尿病患者の細胞内ソルビトール濃度を低下させ、毛細血管の脆弱生を改善し、そして前腕部の血流を改善する等の効果があることが示唆されており、これらの効果はすべて有益であると認められているものである。したがって、糖尿病患者はビタミンCを食事から、もしくは栄養補助食品からより多く摂ることによって、いくつかの合併症の併発を予防することが可能である。この様な多めのビタミンCは彼等の感染症に対する脆弱性、結合組織の損傷や酸化的損傷を低減させることになろう。 
血中ビタミンCレベルと高齢者における死亡のリスク

 
 
 

ビタミンCと高齢者の死亡率低下は関連している2) 

−Vitamins Nutrition Research Newsletterより−
    DNA、タンパク質やその他の生体高分子に対する酸化的な損傷は、例えば冠状動脈硬化性心疾患やガン等を含む、老化におけるいくつかの慢性疾患の原因になると信じられている。現在科学者達は抗酸化栄養素例えばビタミンC、ビタミンEやカロテノイドが、これらの疾病に対する予防や発病を遅らせる可能性を持つことについて研究を行っている。仮にこれら抗酸化物質が有益であるなら、これらの物質を常時使用することは、高齢者に対するヘルスケアのコストを大幅に低減させることになる。ここに要約した研究は、高齢者を対象に、抗酸化栄養素の摂取と慢性疾患による死亡の間の相関性について、調べたものである。  
     1981年から1984年の間に、タフツ大学の研究者達は、マサチュセッツ州に在住する60才もしくはそれ以上の高齢者747人を対象に、食事に関するデータ及び血液サンプルを収集した。研究の対象者はその後9ないし12年間観察された。図に示す様に、血中ビタミンCレベルが中程度から高い範囲にある人達は、血中ビタミンCレベルが低い人達に比べて、全死亡率が顕著に低い。血中ビタミンCレベルが最も高い人々では、全死亡率が46%も減少している。 
同様の傾向は、ビタミンCの摂取の面からも見られる。摂取量の最も高い(388mg/日以上)人々の全死亡率は、摂取量の最も低い(90mg/日以下)人々に比べて、45%も低い。全体の33%の男性及び44%の女性がビタミンCを含む栄養補助食品を摂っており、また28%の男性及び40%の女性がビタミンEを含む栄養補助食品を利用している。また、全体の死亡率を低下させている効果は、主として心疾患による死亡の減少によるものである。 
    この結果は、ビタミンCの摂取が多く、また血中レベルが高い高齢者では、特に心疾患による早期死亡が起こるリスクが低いことを示している。この効果はビタミンC欠乏の改善に由来するものでは無い。ビタミンCの摂取量は、対象者の中で低いカテゴリーに属する人々でも、現在の摂取基準に合致しているからである。この研究の結果は、抗酸化栄養素が冠状動脈硬化性心疾患やその他の、老化に伴う老人性疾患の予防に役立つ可能性があるとするその他の証拠と、一致するものである。 
[References] 
1) Nadine R Sabyoun, Paul F Jacques, and Robert M Russell, Carotenoids, Vitamins C and E, and Mortality in an Elderly Population, Am J Epidemiol 144(5):501-511(1 Sept 1996)
2) Julie C Will and Tim Byers, Does Diabetes Mellitus Increase the Requirement for Vitamin C? Nutr Rev 54(7):193-202(July 1996) 

〈学会情報〉 

●3rd International Congress on Vitamins and Related Biofactors  Goslar, Germany  June 30〜July 3, 1998  Tel : +49-5316181320  Fax : +49-5316181458
●Fi Europe ユ97 -Food Ingredients  London, Uk  Nov. 4〜6, 1997  Tel : +31-346-573777  Fax : +31-346-573811 
●International Symposium on New approaches to Functional Oils and Cereals  Beijing, China  Nov. 10〜14, 1997  Tel : +217-359-2344  Fax : +217-351-8091 
●日本脂質栄養学会第6回大会  日本薬学会長井記念ホール(東京)  平成9年9月5〜6日  Tel : 0426-76-4513  Fax : 0426-76-4508 
●第44回日本栄養改善学会  シーホークホテル&リゾート(福岡)  平成9年10月16〜17日  Tel : 092-752-5667  Fax : 092-752-5668

 
 

紫外線と抗酸化ビタミン

    太陽光線は私たちが生きていく上で必要なものだが、紫外線が皮膚に及ぼすダメージについても明らかとなってきた。  
     肌に影響を与える紫外線には紫外線A(UVA)、紫外線B(UVB)、紫外線C(UVC)がある。日常の生活で浴びているUVAは太陽紫外線の約90%を占め、強い浸透力を持っている。皮膚の真皮にまで入り込み、しみやたるみの原因になる。一方、UVBは表皮までしか到達しないが、赤くはれて日焼けをおこすなど、皮膚に激しいダメージを与える。このように紫外線は私たちの体にとって酸化的ストレスであり、皮膚の構造や機能を正常に維持するためにスキンクリームや栄養補助食品(サプリメント)などが必要となる。  
     太陽光線による皮膚障害を防ぐためにビタミンEやβ-カロテンが効果的であることを示す研究が発表されている。 
〈ビタミンE〉
モルモットの剃毛背部にビタミンEの酢酸エステルを種々濃度をかえて塗布後、UVBを照射した。1)その結果、ビタミンEの濃度に反比例して、紅斑の抑制が認められた。また、ビタミンE塗布の日焼け細胞形成抑制効果を検討した結果、低−高照射量のUVBの皮膚障害作用に対してビタミンEを複数回、照射前に塗布することによって、著しく防御効果を示した(図1)。 
〈β-カロテン〉
また、β-カロテンについてはヒトを用いた興味ある結果が得られている。2)20−25才の女子学生でβ-カロテンを10週間、30mg/日投与後UV暴露を行った。その結果、皮膚、血漿中のβ-カロテンレベルがプラセボ群で著しく低下したが、β-カロテン摂取群では試験開始時レベルを維持していた。さらに、β-カロテンと紫外線吸収剤を併用した場合、紫外線の照射による皮膚の紅斑を抑制することができた。β-カロテンは抗酸化物質としての働きを持ち、その結果、フリーラジカルによる酸化反応(紫外線照射)によってもたらされる細胞の傷害が防止されると推察される。
〈パンテノール〉
また、パンテノールの炎症防止効果をみた研究もある。3)パンテノールを含んだ軟膏を塗布したヒトでは紫外線照射による炎症の抑制が明らかだった(図2)。  
     日焼け止めといわれる紫外線防止化粧品は防止機構、化合物の種類の違いから、UV吸収剤とUV散乱剤とに分けられる。ビタミンEは紫外線照射によって生成されるフリーラジカルを皮膚表面および皮膚内で消去していることが推察される。この際、紫外線吸収剤が皮膚表面にあると、図3のようにさらに紫外線の傷害を抑制することができると考えられている。以上のように、ビタミンEやβ-カロテンなどの抗酸化ビタミンと、UV吸収剤とを併用することによって、UVによってもたらされる急性の皮膚障害の予防に大きな可能性があることが示された。 
図1 日焼け細胞生成に与えるビタミンEの効果

図2 パンテノールの紫外線による炎症防止効果

図3 紫外線照射によって皮膚に発生する    
フリーラジカルのビタミンEによる抑制


 
 
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