1998年1月 No.89

n-3系多価不飽和脂肪酸と虚血性心疾患

国立健康・栄養研究所 特別客員研究員   板倉 弘重 

はじめに
 n-3多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)が最近注目されている。1つにはPUFAが生理活性物質に変換されて様々な機能を発揮することが判って来たからであるが、さらに動脈硬化性疾患、癌、アレルギー疾患など多くの疾病の発症、病態の修飾にかかわっていることが判って来たためであると思われる。PUFAは食品等体外からの供給が必要であるが、その場合にn-6 PUFAとn-3 PUFAとの摂取割合も問題となる。また他の食品成分の摂取量もn-3 PUFAの機能に影響する重要な要因と思われる。ここではn-3 PUFAと虚血性心疾患との関係について考察することとする。

動脈硬化性疾患発症機構
 虚血性心疾患は冠動脈に発生した動脈硬化性病変により発症した疾病であり、その発症に糖尿病、高脂血症、高血圧などの危険因子が関与している。n-3 PUFAはこれらの危険因子に対しても影響がみとめられている1)。これらの危険因子があると、動脈内膜の肥厚、内腔の狭窄が進行していくことになる。内膜に侵入したLDL(low density lipoprotein)は酸化されて酸化LDLに変化する。酸化LDLはマクロファージに存在するスカベンジャー受容体を介して細胞内に取込まれ、マクロファージを泡沫細胞化する。酸化LDLは内皮細胞を活性化させ、さらに平滑筋細胞の内膜への動員と増殖を促進させることになる。内膜への単球やT細胞の遊走も促進し、内膜病変は複雑化していく。内皮細胞の活性化や内膜T細胞を含む炎症性変化は血小板凝集、プラークの不安定化を招き血栓形成を起こし易くして血行障害をひきおこす。n-3 PUFAはこれらの様々なステップに関与していることが見出されてきた2)

耐糖能障害とn-3 PUFA
 日本では耐糖能障害の患者が年々増加している。これは脂肪エネルギー比の増加、運動不足、食物繊維摂取量の低下などの影響が考えられている。脂肪エネルギー比は年々増加傾向にあり、平成7年国民栄養調査では26.4%となった。脂質の食品群別摂取構成比でみると、増加しているのは肉類と牛乳乳製品であり、魚介類や豆類は減少している。平成7年の調査ではPUFAの摂取割合なかでもn-3 PUFAの摂取割合が低下傾向にあるとみなされる。n-3 PUFAの摂取割合の高いイヌイットは糖尿病が少ないこと、飽和脂肪酸摂取量の多い欧米では糖尿病が高率に発症していることなどから脂肪酸と耐糖能障害との関係が注目される。我々はラットを高脂肪食で飼育し、脂肪酸構成を変えた3群で、脂肪細胞の糖の取り込みに及ぼす影響を観察した3)。n-6 PUFAであるリノール酸の多い群と3分の2を魚油でおきかえた群、3分の1を魚油でおきかえた群の3群で比較したところ、実験食開始1週間では、n-6 PUFAの多い群でインスリン依存性糖の取り込みは低下したが、魚油の多い群では糖の取り込みは増加し、魚油の少ない群ではその中間であった。魚油の多い群では細胞膜表面への糖輸送体4のトランスロケーションが増加していた。この実験から、魚油は糖輸送体4のトランスロケーションを促進させることにより脂肪細胞でのインスリン抵抗性を改善させる作用があると考えた。  インスリン抵抗性症候群は内臓脂肪型肥満で合併することが多く、耐糖能障害、高血圧、高脂血症、低HDL-コレステロール血症を伴ない、動脈硬化を進展させる大きな要因であると考えられる。従って、食品によりこれらの病態を予防治療することは動脈硬化発症の抑制にも大切である。
脂肪酸摂取構成の変化は肥満にも影響を及ぼしている。我々は脂肪酸組成の異なる油脂を摂取した場合の肥満と耐糖能に及ぼす影響について動物実験を行った4)。動物はC57BL/6J雌性マウスを用いた。 

油脂はパルミチン酸(45%)とオレイン酸(40%)を多く含むパーム油、オレイン酸(44%)とパルミチン酸(24%)を多く含むラード、オレイン酸(59%)とリノール酸(20%)を多く含むナタネ油、リノール酸(54%)とオレイン酸(24%)を多く含む大豆油、リノール酸(76%)を主とするサフラワー油、α-リノレン酸(58%)を多く含むシソ油、DHA(23%)とEPA(7%)を含むマグロ油の7種類について検討した。これらの油脂は脂肪エネルギー比で60%となる様な高脂肪食として摂取させ、対照群として高糖質食(脂肪エネルギー比10.7%)をもうけた。各群はn=6ないし11匹であり19週間飼育した。各群の体重増加量、インスリン値、血清トリグリセライド値、総コレステロール値を表1に示す。19週間飼育後の体重増加量は大豆油>ラードパーム油ナタネ油サフラワー油シソ油>魚油、の順であり、高脂肪食にすると高糖質食に比較して肥満傾向となって来るが、魚油は高糖質食と変わらず、他の油脂とは異なっていた。有意な高インスリン血症はパーム油でのみ認められた。血清トリグリセライド値は高脂肪食群で有意に低下しているが、パーム油群のみ有意な低下が認められなかった。血清総コレステロール値はパーム油、ラードで有意な上昇が認められたが、ナタネ油では有意な低下が認められた。魚油は血清トリグリセリセライド値は有意に低下したが総コレステロール値は高糖質食と変らなかった。  3週目および18週目に糖負荷試験を行った(図1)。3週目では高糖質食で負荷後の血糖値の上昇は少なかったが高脂肪食群では油脂の間で差がなかった。18週目になると油脂の間で差が認められ、糖負荷後30分の値で比較すると、サフラワー油が最も高く(21.5mmol/l)、中等度に上昇しているのはナタネ油、大豆油およびラード(約17.6mmol/l)であった。軽度上昇はシソ油、魚油およびパーム油(約13.8mmol/l)であった。高糖質は10.4mmol/lと最も低かった。糖負荷後の血糖値の総和(Σグルコース)と体重との間には正相関が認められる(γ=0.669、p<0.0001)(図2)。即ち肥満度と耐糖能障害と関連のあることが示されている。しかし、これを脂肪酸摂取の面からみると図2(B)に示す様に同じ高脂肪食でも脂肪酸構成が異なることで体重の増加に伴うΣグルコースの値が変わってくることが認められた。パーム油とサフラワー油と比較すると体重の増加量はサフラワー油よりむしろパーム油群の方が大きいがΣグルコース値は明らかにサフラワー油群が高値である。魚油は高脂肪食であっても体重は高糖質食と変らず、Σグルコースの値も他の油脂群と比較して低い群に入る。マウスにおける実験をそのまま人にあてはめることは出来ないが、臨床的研究でこの動物実験の成績を支持する結果も得られている5)。今後大規模な脂肪酸を用いた臨床研究が必要である。  移民研究で、日本在住の日本人とハワイあるいはカリフォルニア在住の日系米人の食事摂取量と耐糖能との関係が検討されている。日系米人では耐糖能障害が増加し、高インスリン血症も増加している。脂肪摂取量の増加、特に動物性油脂摂取量の増加が関係しているのではないかとされる。 
図1 経口グルコース負荷試験
3週目および18週目に1mg/g体重の、D-グルコースを一夜絶食後に 胃チューブを用いて投与した。 
 


 
図2 経口糖負荷後の血糖値総和(0,30,90,120分)と体重との関係(A)、および各食事群の体重および血糖値総和の平均値との関係(B)

[References] 
1)Illingworth R, Ullmann D. Effects of Omega-3 Fatty Acids on Risk Factors for Cardiovascular Disease. In Omega-3 Fatty Acids in Health and Disease P.39-69. Ed. by R.S.Lees and M. Karel. Marcel Dekker. N. Y. 1990.
2)De Caterina R, Gimbrone M.A.Jr. Leukocyte-Endothelial Interactions and the Pathogenesis of Atherosclerosis. In n-3 Fatty Acids : Prevention and Treatment in Vascular Disease P.9-24. Ed. by Kristensen SD, Schmidt EB, De Caterina, R, Endres S, Bi & Gi Publishers Verona-Springer Verlag. London, 1995
3)Ezaki O, Tsuji E, Monomura K. et al., Effects of fish and safflower oil feeding on subcellular glucose transporter distribution in rat adipocytes, Am J Physiol. 263 : E94-E101. 1992
4)Ikemoto S, Takahashi M, Tsunoda N. et al., High-Fat Diet-Induced Hyperglycemia and Obesity in Mice : Differential Effects of Dietary Oils. Metabolism 45 : 1539-1546. 1996 
5)Sirtori CR, Paoletti R, Mancini M et al., n-3 Fatty acids do not lead to an increased diabetic risk in patients with hyperlipidemia and abnormal glucose tolerance. Am J Clin Nutr 65 : 1874-1881. 1997 6)Bronsgeest-Schoute HC, Van Gent CM, Luten JB, et al., : The effect of various intake of w-3 fatty acids on the blood lipid composition in healthy human subjects. Am J Clin Nutr 34 : 1752-1757. 1981
n-3 PUFAによる虚血性心疾患予防試験  n-3 PUFAは高脂血症に対しては主としてVLDLを低下させる6)。また、V型高脂血症に対しても改善効果が認められており7)、動脈硬化が高率に合併するとされる高レムナント血症にも効果があると考えられる。高血圧患者を対象にn-3 PUFAを投与した臨床試験では、3−6%程度の軽度の血圧低下がみられたとの報告が多い8,9)。  n-3 PUFAの凝固線溶系に及ぼす影響については、血小板凝集能を低下させ出血時間を延長させる10,11)。n-3 PUFAが糖尿病、高血圧、高脂血症などの動脈硬化危険因子に抑制的に作用することから、n-3 PUFAの虚血性心疾患発症抑制作用が期待される。  n-3 PUFAの摂取量が多いグリーンランドイヌイットに虚血性心疾患が少ないことが報告されて以来多くの調査がされている。Zutphen Studyでは1日0から45gに魚の摂取量が増えると有意に虚血性心疾患が減少したことを報告している12)。毎日習慣的に魚を45g摂取していると死亡率が60%以上低下した。  Western Electric Studyでは1日35g以上の魚の摂取で虚血性心疾患が35%以上低下したことを報告している13)。Multiple Risk Factors Intervention Trialでも魚由来のn-3 PUFAの摂取量が最も多い群(664mg/d)で虚血性心疾患およびその他の死因による死亡率が低いことが報告されている14)。脂肪組織中のn-3 PUFAの量と虚血性心疾患との関係を調べた報告でも15)、n-3 PUFAの多い場合に虚血性心疾患のリスクが低いか、程度が軽いことが認められている。ただし、なかには魚の摂取量の増加が虚血性心疾患発症率を低下させなかったとの報告もいくつかみられる16,17)。 
虚血性心疾患の一次予防、二次予防試験において魚の摂取量で解析することは、他の食品の摂取量との関係など、多くの要因が関係して必ずしもn-3 PUFAの影響とみることは出来ない。 
 魚油を用いた試験も行なわれ、特に二次予防試験で良い効果が報告されているが、魚油に含まれているEPA、DHAあるいはその他の成分がどの様に関与しているのか明らかではない。さらに研究を推進する必要がある。  そこで精製したEPA製剤を用いた高脂血症を対象とする大規模臨床試験が日本で開始されたことは注目に値するものと考える。Japan EPA Lipid Intervention Study(JELIS)と呼ばれている。これは日本で開発され臨床応用されている抗高脂血症薬イコサペント酸エチル(EPA)を用いて、高脂血症患者(安定している虚血性心疾患合併を含む)を対象に心血管事故、心血管死および総死亡を指標として、有効性ならびに安全性をEPA投与群と対照群による無作為化非盲検化比較試験で検討することとしている。解析症例数として1群6,300例(計12,600例)としている。対象者は男性40−75才、女性は閉経後から75才までで、血清総コレステロールが250mg/dl以上でHMG-CoA還元酵素*阻害薬による治療が必要とされる高脂血症患者である。EPA群は1日1,800mgのEPAを経口摂取し、対照群とともにHMG-CoA還元酵素阻害薬を投与する。投与期間は5年間である。プライマリーエンドポイントは心血管イベントの総発症率、心血管死亡率、総死亡率であり、これらを両群で比較する。血漿脂肪酸分画を測定することとしており、セカンダリーエンドポイントに血漿脂肪酸分画とイベント発症との関係を検討することとしている。日本全国で1万人以上を対象として血漿脂肪酸が測定され、さらにEPA投与の影響が検討されることは、脂肪酸特にn-3 PUFAと虚血性心疾患との関係を明らかにするためには重要なものと考えられる。日本ではこれまでに対照群をおいた大規模臨床試験が成功していなかった。多くの人々の協力がないとこの種の研究を推進することは困難である。J. ELISはベースにHMG-CoA還元酵素阻害薬が使われているが、それでも、高脂血症患者の虚血性心疾患発症に及ぼすn-3 PUFAの影響が明らかになるものと期待される。
7)Molguard J, von Schenck H. Lassvik C et al., Effect of fish oil treatment on plasma lipoproteins in typeVhyperlipoproteinemia. atherosclerosis 81 : 1-9. 1990 
8)Norris PG, Jones CJ, Weston MJ. Effect of dietary supplementation with fish oil on systolic blood pressure in mild essential hypertension. Ba Med J. 293: 104-105. 1986 
9)Bonaa KH, Bjerve KS. Straume B et al., Effect of eicosapentaenoic acid and docosahexaenoic acid on blood pressure in hypertension. A population-based intervention trial from the Tromso Study. N Engl J Med. 322 : 795-801. 1990. 
10)Atkinson PM, Wheeler MC, Mendelsohn D, et al: Effects of 4-week freshwater fish(trout)diet on platelet fatty acids. serum lipids, and coagulation factors. Am J Hematol 24: 143-149. 1987
11)Thomgren M, Gustafson A.Effects of 11-week increase in dietary eicosapentaenoic acid on bleeding time, lipids and platelet aggregation. Lancet. ii : 1190-1193. 1981 
12)Kromhout D, Bosschieter BB, de Lezenne Coulander C. The inverse relation between fish consumption and 20 year mortality from coronary heart disease. N Engl J Med 312 : 1205-1209. 1985 
13)Shekelle RB, Missell VM, Paul O, et al., Consumption and mortality from coronary heart disease. N Engl J Med 313 : 820. 1985
14)Dolecek TA, Epidemiological evidence of relationships between dietary polyunsaturated fatty acids and mortality in the Multiple Risk Factor Intervention Trial. Proc Soc Exp. Biol Med 200 : 177-182. 1992
15)Seidelin KN, Myrup B, Fischer-Hansen B. n-3 fatty acids in adipose tissue and coronary artery disease and inversely related. Am J Clin Nutr 55 : 1117-1119. 1992 
16)Simonsen T, Vartun A, Lyngmo V et al., Coronary heart disease, serum lipids, platelets and dietary fish in two communications in northern Norway. Acta Med Scand. 222 : 237-245. 1987
17)Ascherio A, Rimm EB, Stampfer MJ et al., Dietary intake of marine n-3 fatty acids, fish intake, and the risk of coronary heart disease among men. N Engl J Med 332 : 977-982. 1995 

*糖輸送体4 生体膜のグルコース輸送を仲介する膜タンパク質の1種でインシュリンに応答して糖をとりこむ。
*HMG-CoA還元酵素 コレステロールを生合成する過程で働く酵素 


 
 
 

ウイルス性肝炎におけるビタミンEのレベル
(Antioxidant Vitamins NewsLetterより)

ある種の肝疾患では、酸化的なストレスが進行する事によって抗酸化栄養素が消失する。以前の研究で、血色症*、アルコール性肝臓病やウイルソン病*などの肝臓に影響を与える病気を持つ患者において、主要な脂溶性抗酸化物質であるビタミンEの血漿レベルが低下することが示されている。ドイツのデュッセルドルフにあるハインリヒ−ハイネ大学(Heinrich-Heine-Universitat)からのこの報告は、この様な低下がウイルス性肝炎においても、少なくとも重篤な症状にある人達において見られる事を示した。  この研究では、様々なウイルス性肝炎の症状を持つ48人の患者と、対照としての32人の健康な人達の血漿ビタミンEのレベルを測定した。血清トランスアミナーゼのレベル(肝臓細胞の損傷の指標)が高かった患者では、ビタミンEやビタミンE/脂質の比が、表に示されている様に、対照者に比べて33%も低くなっていた。ビタミンE/脂質の比の顕著な低下は、全ての肝炎患者のグループで見られたが、ビタミンEのレベルには有意な低下は見られなかった。 一人のA型急性肝炎*の患者について、ビタミンEのレベルを継続的に調べた。この患者では、トランスアミナーゼが低レベルである回復の過程で、ビタミンEレベルの継続的な上昇が見られた。17日後、急性の肝臓の損傷からの回復に伴って、血漿ビタミンEは25%の上昇を見せ、またビタミンE/脂質の比は42%の上昇が見られた。  この研究の結果から、フリーラジカルが関与する肝臓傷害は、その他のタイプの肝疾患で見られている様に、ウイルス性肝炎の病原性に対しても影響を持つ可能性が示された。血漿ビタミンEのレベルが低い事は、炎症が進行しているプロセスで生成されている活性酸素によって、この抗酸化物質が消費されている事を反映している可能性がある。この結果は、ウイルス性肝炎の患者で起る酸化的損傷の予防に、ビタミンE療法が有効である可能性を示唆している。 
*血色症 細胞の鉄沈着を伴う進行性の体内総鉄含量の増加。 
*ウイルソン病 過剰な銅が肝、脳、腎などに蓄積する遺伝的疾患。 
*A型急性肝炎 肝炎A型ウイルス(HAV)による糞便を介して経口感染する流行性肝炎。一過性で慢性化しない。

 
 

ビタミンEと水晶体の混濁

(Antioxidant Vitamins NewsLetterより) 

白内障は目の水晶体が徐々に不透明になる長い変性のプロセスの結末点である。酸化的な損傷が混濁化をもたらす重要な役割を担っているとされている。  抗酸化栄養素、例えばビタミンCやEが水晶体の混濁の進行を遅らせ、白内障の発症を遅らせる事ができると考えられている。幾つかの疫学調査で、血中の抗酸化栄養素が低いレベルでは白内障のリスクが高まっている事、またその他の調査ではマルチビタミン補助食品やビタミンCもしくはEの多量摂取が予防的に働く事が示されている。しかし栄養素と白内障に関する疫学調査の結果は必ずしも一致が見られている訳ではない;ある調査の結果からは、抗酸化物質が、あるタイプの白内障の予防に効果がある事が示され、一方ではそれが見られないとする結果も示されている。ここに要約した調査は、報告されているその他の調査が、治療が必要とされる程重い白内障を患っている高齢者を対象としているのに対して、この調査が、水晶体の混濁の初期段階にある比較的若い人たちを対象として行なったと言う点で特異的である。
この調査では、フィンランドのKuopioにおいて、410人の中年のフィンランド人男性(平均年齢57.3才)を対象に、目の検査を18ヶ月ごとに3回行なった。 
毎回の検査の都度、標準のシステムに従って、それぞれの目の水晶体の混濁の度合いが、核性*、皮質部性*及び後嚢下性*混濁の3種類に区分され、各々について記録が行われた。血漿ビタミンEのレベルが、最初の検査の時点で測定された。  血漿ビタミンEのレベルが低い場合、それに伴って、3年の調査の過程で、初期の皮質部性水晶体混濁の進行(悪化)のリスクが高くなっている事が見られている。ここに示したグラフは、血漿ビタミンEが低い男性における皮質部性水晶体混濁の進行するリスクが、血漿ビタミンEレベルがより高い男性のそれに比べて、3倍高まる事を示している。核性水晶体混濁の進行に対しては、ビタミンEとの関係がみられていない。後嚢下性混濁は非常に稀にしか見られなかった為、これとビタミンEとの関係については評価を行なう事ができなかった。  この結果は、ビタミンEの栄養状態の変動が正常な範囲内でも、目の水晶体に起こるある種の変性が悪化していく初期段階においてすら、その進行に影響を与える事を示唆している。この結果は、抗酸化栄養素が白内障の予防に効果があるとするその他の証拠と一致している。 *水晶体の中心部分を水晶体核、その周辺が皮質。表層後方に後嚢がある。
皮質部性水晶体混濁の進行と血漿ビタミンEの関係

ビタミン広報センター(略称 VIC)は、国内外に於ける最新のビタミン研究の成果を科学的に正確に保健、栄養関係者および消費者の皆様に提供しております。当センターは1981年に設立されました。 港区芝2−6−1 〒105-8532 Tel(03)5763−4119 Fax(03)5763−4121