1998年4月 No.90

第50回大会日本ビタミン学会を主催するにあたり

京都大学農学研究科教授   熊谷 英彦


はじめに
    ビタミンはヒトに必須の微量栄養素として発見された。その後水溶性ビタミンの補酵素としての研究が進展し、現在ではタンパク質の立体構造と機能の研究と相俟って構造生物学の精密化の一翼を担っている。一方、脂溶性ビタミン群に関する研究の進展は近年めざましいものがあり、遺伝子発現や抗酸化などの生命現象の重要課題に関連して分子及び細胞レベルでの研究が進展されつつある。こういった研究とともに疾病の治療や予防といった個体レベルでの研究も大いに進展しつつある。特別講演、シンポジウム、授賞講演、一般講演を通じて、本大会が第50回記念の大会としてビタミン研究の歴史を振り返り、その将来を展望する機会となることを望む。 
日本ビタミン学会の第50回記念大会は、平成10年5月28日(木)、29日(金)30日(土)の三日間にわたり、京都市下京区の京都リサーチパークにおいて開催されます。京都は本学会の発祥の地であり、第一回大会の開催地であります。この京都において第50回の大会を祝い、その歴史を振り返るとともにその将来を展望することが本大会の目的の一つであると考えます。
ビタミンは必須微量栄養素として発見されその欠乏症の治療と深く関わってきました。そしてバイオサイエンスの研究が高度に進んだ現在においても、ビタミン学は生化学的、分子生物学的研究という基礎的側面と、ヒトや動物の生命や健康と深く関わる治療や栄養という応用的側面を不即不離の状態で合わせ持っています。基礎的研究の結果から将来の応用を考える、あるいは応用研究の成果から基礎研究を新しく展開するといったことが、何時の大会にも望まれることではありますが今大会ではとくに意義のあることと感じられます。
第1日の午後に総会と学会賞授賞式がありそれに続いて記念式典、記念講演会、懇親会があります。第2日の午後には、授賞講演、及びテクニカルセミナーがあり、第3日の午後に記念シンポジウムが行われます。一般講演は一題12分の持ち時間で3日間いずれも午前中に行われます。3会場で121題の講演があります。記念大会ということで3日間をあてましたが、その分、時間的には参加者の方々にゆっくり学会及び京都を楽しんでいただけるかと思います。  
記念特別講演は「眠りの謎」早石修大坂バイオサイエンス研究所所長、「ビタミンB12と貧血、その歴史の流れ」奥田邦雄千葉大学名誉教授、「Vitamins and Related Biofactors A Congratulatory Adress to the Vitamin Society of Japan」L. Ernsterストックホルム大学教授の各先生方の御講演3題であります。
記念シンポジウムは、「ビタミン研究のフロンティア」という総合タイトルのもと、以下の演題で5人の先生方の講演があります。「ヒト集団における微量栄養素のガン予防効果」廣畑富雄中村学園大学教授、「微生物によるビタミンの製造研究」清水昌京都大学農学研究科教授、「フラビン酵素における構造と反応の連携」三浦烈熊本大学医学部教授、「ビタミン関連酵素の遺伝子異常」成澤邦明東北大学医学部教授、「脂溶性ビタミンに対する核内レセプターと遺伝子発現の制御」梅園和彦京都大学ウイルス研教授。
今年の学会賞授賞の先生方およびその研究題目は、武田英二徳島大学医学部教授「ヒトビタミンD受容体機能と遺伝子解析」、田中英彦岡山大学農学部教授「含硫・含セレンアミノ酸代謝と補酵素型ビタミンに関する研究」、奨励賞は、林秀行大坂医科大学助教授「アスパラギン酸アミノ機転移酵素の精密反応機構に関する研究」、田鶴谷恵子武庫川女子大学薬学部助手「真核生物におけるチアミンの生合成」であります。
記念大会にふさわしく、50回のお祝いを盛大に行うとともに、ビタミン研究の将来の展開を見据える機会となりますよう多数の方々の参加をお待ちしております。また新緑の京都を大いに満喫して戴けたらと存じます。 

 
 

ビタミンCに関する話題
(Antioxidant Vitamins NewsLetterより)

ビタミンCが運動誘発性喘息に及ぼす影響
ビタミンCと肺機能についての研究では、ビタミンCは喘息患者の気管収縮を抑制し、他にも好影響を与えるとみられている。これらの研究結果はテルアビブ(Tel Aviv)大学の調査により立証され、広く知れ渡った。この研究では、7歳〜28歳の運動誘発性喘息患者20人に、7分間の足踏み運動を行う1時間前にビタミンC2gを投与した。その結果、肺機能検査では20人中9人に運動誘発性の気道収縮に対し、予防効果がみられ、他の2人にも部分的な予防効果がみられた。一方ビタミンCは安静時の肺機能には影響を及ぼさなかった。最初の実験で良好な結果がみられた5人の患者に、1日500mgのアスコルビン酸を2週間投与すると、5人中4人に予防効果が継続してみられた。この研究結果は、ビタミンCは一部の運動誘発性喘息患者の気道収縮に対して予防効果があることを示している。
出典 Arcb Pediatr Adolesc Med 151 (4) :367-370 (Apr 1997) 

喫煙者のアスコルビン酸と酸化ストレス
喫煙により血漿ビタミンC量が減少すると同時に、酸化的ストレス状態(oxidative stress)が誘発されることはよく知られている。デンマークのオデンセ(Odense)大学では、タバコの煙により、血漿中で、アスコルビン酸が酸化されて、大量のデヒドロアスコルビン酸に変化する影響について新分析方法を用いて調査した。健康なデンマークの成人219人の検体では、血漿中の総ビタミンC量(アスコルビン酸+デヒドロアスコルビン酸)は予想通り非喫煙者よりも喫煙者の方が低く、デヒドロアスコルビン酸の割合は、喫煙者が総ビタミンC量の1.8%で、非喫煙者の0.1%と比較すると非常に高かった。以上の結果、喫煙は酸化ストレス状態やアスコルビン酸量の減少を引き起こし、アスコルビン酸の体内貯蔵量を低下させるとみられる。
出典 Am J Clin Nutr 65 (4) :959-963 (Apr 1997)

血漿アスコルビン酸を増加させる適性摂取量
北アイルランドの研究者は、成人27名にビタミンCを250〜300mg投与し、90分後に血漿アスコルビン酸の変化を測定した。ビタミンC摂取により血漿アスコルビン酸量は増加した。しかし1回に1.0gかそれ以上摂取しても、500mg摂取した場合と大きな差はなかった。1度のビタミンC摂取による反応は、初めにアスコルビン酸を絶っていることには関係なかった。これは貯蔵されているアスコルビン酸による影響はなかったことを示している。この研究の結果は、血漿アスコルビン酸量を増加させる点からいうと、ビタミンCの適性摂取量は500mgであることを示している。
出典 Nutr Res 17 (2) :187-190 (Feb 1997) 

ビタミンCとオレンジジュースの尿中シュウ酸塩形成に及ぼす影響
アスコルビン酸はシュウ酸塩の前駆物質であり、腎臓結石の構成成分である。アスコルビン酸の大量摂取による尿中シュウ酸塩の増加と、それにより腎臓結石ができる危険性が高くなる可能性について問題があがった。ワイオミング(Wyoming)大学では、ボランティアに1日2gのアスコルビン酸を4日間摂取させ(栄養補助食品の形で摂取するか、またはビタミンCを添加したオレンジジュースをビタミンCを2g摂取するために2.85r飲むかどちらかの方法)、シュウ酸塩の尿中排泄量の変動を測定した。その結果、ビタミンC栄養補助食品は尿中シュウ酸塩量に影響を及ぼさなかった。しかしオレンジジュースは内因性誘導によるシュウ酸塩の尿中排泄量が増加した。これらの結果、オレンジジュース中のアスコルビン酸塩からの内因性シュウ酸塩の形成は、栄養補助食品中のアスコルビン酸塩からより形成されやすいことを示している。筆者らは、オレンジジュース摂取により、内臓の内因性シュウ酸塩の合成や次におこる吸収が促進し、管腔の環境が変化する可能性があると考えている。
この結果から、必ずしも、オレンジジュースが腎結石症を発症させるということには結びつきません。
出典 Nutr Res 17 (3) :415-425 (Mar 1997)

イギリスの高令者層におけるビタミンCの状態
イギリスのノルヴィッチ(Norwich)地域では、高令者層の栄養状態を評価するために、68〜90歳の男性60名、女性85名から血液を採取し、食事調査を行った。男女のビタミンCの平均摂取量は各々70.2gと65.6gで、男性では20%、女性では31%の人がイギリスのビタミンC栄養所要量(UK-RNI)よりも低く、また男性で2%、女性で11%の人が平均摂取量(EAR)より低かった。血漿アスコルビン酸量は、男性では15%、女性では17%の人が低値であった。明らかに適性量のビタミンCを摂取しているにもかかわらず、血漿アスコルビン酸は低値であるという論文もいくつかあり、これらの点から各個人のビタミンC必要量は、一般的な推奨量よりも多く摂取する必要があることが示唆される。
出典 Br J Nutr 77 (2):225-242 (Feb 1997)

ビタミンCとアフラトキシンの毒性
動物実験では、肝臓の抗酸化酵素の活性を変化させる物質は、アフラトキシンの毒性(強い毒性で、この毒性は不適切な貯蔵方法がとられた穀類、ピーナッツやその他の食物では、発がん性物質を生じるある種のカビ汚染による)を低減させる効果がみられた。これらの点からビタミンCに同じ効果のあることが期待されるだろう。モルモット(ビタミンCを含む食事が必要な哺乳類)を用いた研究では、ビタミンCを25mgかまたは300mgを3週間、前投与した結果、アフラトキシンの単回大量投与による死亡を防ぎ、また300mg投与した場合は、肝臓の損傷もかなり低減させた。しかし、300mg摂取している集団のうちの3匹に、1ヵ月後再度アフラトキシンを投与させた結果、ビタミンCは肝臓の損傷に対する予防効果を示さなかった。これらのカリフォルニア、パロアルト(Palo Alto)のライナスポーリング研究所(Linus Pauling Institute of Science and Medicine)での実験は、ビタミンCの大量摂取はアフラトキシン単回投与による肝臓損傷を抑制するが、再投与による肝臓損傷は防御しないことを示している。
出典 Toxicol Appl Pbarmacol 143(2):429-435(Apr 1997) 


 
 

複合ビタミン剤の話題:葉酸を中心にして(Nutriviewより)
先天性奇形の予防 

1991年のMedical Research Council Vitamin Studyの研究発表1)に続き、1992年のハンガリー家族計画審議会2)で、葉酸が神経管欠損症(NTD)の予防に重要な役割を果たしていることが、広く認承された。その結果、例えば合衆国公衆衛生局では妊娠の可能性のあるすべての女性に対し、1日0.4mgの葉酸の摂取を推奨している。
しかし、研究では0.4mgの葉酸のみでNTDの初回発生を有意に減少させた。(中国ではこのような試験(法)が現在行われている)
Medical Research Council studyでは、妊娠前に1日4mgという非常に大量の葉酸を摂取した結果、NTDの再発率が減少したとしている。ハンガリーの研究によると、葉酸0.8mgを含む複合ビタミン剤の投与により、NTDの初回発生が効果的に予防された。Smithellsら3)は、0.36mgの葉酸を含む複合ビタミン剤の使用を提案したが、これがNTDの再発率を減少させるのに十分な量であるか否かが問題である。
NTDの一般的な原因は5,10-メチレン―テトラヒドロ葉酸還元酵素の遺伝的変化による高ホモシステイン*血症である。妊娠前に葉酸を含む複合ビタミン剤を摂取すると、血中のホモシステイン量の低下がみられる。複合ビタミン剤を摂取した女性のつわりの減少4)はビタミンB6(ホモシステインの代謝に重要な役割を果している)の働きによるものかもしれない。ビタミンB12不足によるNTDの危険率の増加や、ビタミンB12摂取によるビタミンB12独自の作用による予防効果などの研究報告もある5)
しかし、妊娠前に複合ビタミン剤を摂取する主な理由は、NTDと同様、他の先天性異常の発生率を減少させることである。(表1)
ハンガリー二重盲検試験と他の患者対照研究はいずれも、複合ビタミン剤を摂取した。しかしこの研究報告では1つだけ相違点があった。DBT試験では、葉酸0.8mgを含む複合ビタミン剤の摂取後、口顔裂の割合は減少しなかった6、7)。しかし症例−対象試験では、葉酸を3〜6mgと大量に摂取した結果、口裂の発生が減少した14)。これは口顔裂に対し、違った予防機序がある可能性を示している。これにもかかわらず、ハンガリーでは妊娠前に生理学的な用量(1mg以下)の葉酸を含む複合ビタミン剤の摂取を勧めている。 
妊娠前の注意点
 ハンガリーの妊娠前ケア計画は、妊娠前サプリメント(栄養補助食品)の摂取についての簡単で実用的な方法である15)。これには3段階あり、まず生殖機能の検査、次に妊娠前の準備期間について、最後に妊娠初期の時の予防である。経口避妊薬を服用している女性は赤血球中の葉酸塩が低いので、子供をつくる(妊娠)3ヵ月前から、葉酸が強化されている複合ビタミン剤の摂取が勧められている。経口避妊薬を使用していない女性は、少なくとも妊娠1ヵ月前から複合ビタミン剤を摂取するよう勧められている。この期間中、早すぎる時期での妊娠を避けるにはコンドームの使用が提案されている。妊娠後少なくとも、2回目の月経期間が過ぎるまで、複合ビタミン剤の摂取を続ける。すなわち一般的に妊娠10〜12週まで摂取される。また、この計画を完全に成功する前に克服しなければならない主な障壁は、いかに人々の教育レベルを向上させ、無計画な妊娠の数を減らすかである。
家族計画が策定されていない国では、結婚後直ちに複合ビタミン剤の摂取を始め継続していくことや、少なくとも妊娠3ヵ月まで摂取することが必要であろう。また、この場合には、誕生後すぐに、こうした栄養補助食品の再摂取をすることが必要である。この摂取方法は一般の妊娠性貧血も同様に治療できるので有効である。しかし文化的、財政的な面で問題にぶつかる国もあるだろう。

食品による予防
複合ビタミン剤摂取以外に、若い女性の微量栄養素の状態を改善させる方法も考慮するべきである。天然の葉酸や他のビタミンの摂取量を増加するように食事を考慮しても、予防するのに必要な量を摂取することは困難である。さて、食品中の葉酸のほとんどは、ポリグルタミン酸として存在する。これは吸収される前に小腸上部にあるコンジュガーゼ(Conjugase)という酵素によりモノグルタミン酸に変換される。このため、食事中の葉酸のうち血液に到達するのは、わずか50%である。この事を考慮し、妊娠初期の食事からの摂取推奨量は1日約0.66mgと算出された16)。現在ハンガリー人の日常摂取量は1日約0.18mgである17)。他国での摂取量も同じ程度である。食品から1日0.66mg吸収するには、3.7倍摂取する必要がある(すなわちブロッコリーに換算すると23人分の量である)。Cuskellyら18)は天然の葉酸塩を多く含んだ食品の摂取は、葉酸の状態の改善にはあまり効果的ではないと述べている。したがってこれらの食品の摂取はNTDや他の先天性代謝異常の予防には最も良い方法ではないのかもしれない。
合成された葉酸(モノグルタミン酸)を摂取すれば、変換する必要がないのでより効果的に吸収される。主食への葉酸の強化は、葉酸塩の状態を改善するには適切な方法であろう。1997年の終わりに、ハンガリーで葉酸とビタミンB12、ビタミンB6を強化した小麦粉が発表された。この強化食品の2つの目的は、NTDや他の先天性異常(心臓血管、尿路、四肢欠損)の減少と高ホモシスチン(ホモシステイン)血症によって発症する心臓血管疾患の予防である。 

[Reference] 1)Lancet 1991; 338: 131-137. 2)N Engl J Med 1992; 327: 1832-1835. 3)Arch Gynecol Obstet 1992; 251: 181-185. 4)Lancet 1989; 2: 498-499. 5)Q J Med 1993; 86: 703-708. 6)Br Med J 1993; 306: 1645-1648. 7)Am J Med Genet 1996; 62: 179-183. 8)Lancet 1995; 345: 932. 9)Epidemiology 1995; 6: 212-218. 10)Am J Med Genet 1995; 59: 536-545. 11)Pediatrics 1996; 98: 911-917. 12)Epidemiology 1997; 8: 157-161. 13)Lancet 1995; 345: 393-396. 14)Teratology 1996; 53: 345-351. 15)In: Bendich A, Deckelbaum RJ. Preventive Nutrition. Humana Press, Totowa, NJ 1997; 357-371. 16)Lancet 1993; 341: 148-149. 17)Int J Vitam Nutr Res 1994; 64: 300-305. 18)Lancet 1996; 347.657-659.

〈学会情報〉 ●European Osteoporosis Congress, Berlin, September 11-15  Covers all medical topics related to osteoporosis ●Helsinki, June 24-27  2nd International Conference on Natural Antioxidants and Anticarcinaogens in Nutrition, Health and Disease ●The Path to Matemal Health:  The Role of Private Voluntary Organizations in Preventing Deficiencies of Vitamin A and Iron in Women of Childbearing Age.  Pan American Health Organization, Washington, D.C., May 5-7, 1998 ●Maternal Nutrition: New  Developments and Implications, Paris, France, June 11-12, 1998. ●3rd International Congress on Vitamins and Related Biofactors  (Goslar, Germany)  June.30〜July.3, 1998  Tel:+49-5316181320  Fax:+49-5316181458 

*ホモシステイン〔homocysteine〕=2-アミノ-4-チオ酪酸.天然アミノ酸であるが、タンパク質には含まれていない。C4H9NO2S、分子量135.19.N.H.Horowitz(1947)により、Neurospora(アカパンカビ)に発見された。メチオニンの分解の中間体であるとともにメチオニンおよびシステインの生合成の前駆体となる。
 

γ-リノレン酸と皮膚について 

ドデシル硫酸ナトリウムはヒトの皮膚を乾燥させたり、カサカサさせたりする。界面活性剤がケラチンに結合し、これを変性させたり、さらに脂質を崩壊させたりする事が、この様な現象を引き起こす原因であると考えられる。細胞間角質層脂質は、バリアとして、表皮からの水分の損失を防護する重要な働きを持つ事が指摘されている。齧歯類における必須脂肪酸欠乏症は、角質層のバリア機能に関する細胞間脂質の直接的な役割を示す一つの証拠として認められている。リノール酸の局所的な塗布によって──必須脂肪酸欠乏症状態の事前の改善なくしても──、短時間でこの防護作用の欠如が改善されるという結果は、現在我々が持つ(この問題に対する)認識に対して、決定的(な手懸かりを与えるもの)である。この結果は、リノール酸が、プロスタグランディンの関与無しに、細胞間脂質の補充を行う事によって、表皮の透過性に直接的に影響を与えうるものであることを示唆している。さらに、透過性バリアの修復には、ある種の構造を持つ(特定の)脂肪酸と関係がある事が必須脂肪酸欠乏症において報告されている。我々のこの研究では、γ-リノレン酸の含有量が高いボラージ油を含むクリームを塗布した場合、リノール酸に富むサフラワー油を配合したクリームや乳化剤のみの場合のそれに比べて、ドデシル硫酸ナトリウム損傷皮膚の、保水性、粗さや経皮的水分飛散量値等(の改善)に対して、より強い効果を示す事が認められている。 この効果は以下の様に説明できる。
・角質層によるボラージ油(したがってγ-リノレン酸)の吸収
・角質層の水分保持力の増加、及び
・脂質の流動化による均質な、滑らかな表面の形成
γ-リノレン酸が豊富に含まれている油を用いた局所的な塗布によってもたらされる、角質層機能の改善に対するいろいろな効果については、今後さらに明らかにされる必要がある。しかし、表皮のバリア機能の消失は、必須脂肪酸欠乏症によってもたらされる第一次的な結果である。角質層の最大の極性脂肪のグループであるセラミドは、全てバリア機能に重要な働きを持つスフィンゴシンを含んでいる。リノール酸はセラミドに最も普遍的に見られる不飽和脂肪酸である。リノール酸塩欠乏症の研究は、皮膚のバリア機能におけるリノール酸塩の重要性を明確にした。すなわちリノール酸塩がないと、ケラチノソームはラメラ構造を形成する事ができなくなり、保水バリア機能が消失してしまう。
セラミドにおけるγ-リノレン酸の機能については解っていない。一つの可能性としてはセラミドへのγ-リノレン酸の取り込みである。ラットやマウスの皮膚に対して、γ-リノレン酸、リノール酸、アラキドン酸やジホモ-γ-リノレン酸を用いて行った、局所的塗布による比較実験に関する二つの報告では、γ-リノレン酸が、他の多価不飽和脂肪酸に比べて、経皮水分飛散量をより大幅に低下させうることが示されている。γ-リノレン酸が豊富に含まれている植物油を用いた局所的な処置によって、皮膚の状態が改善されうることについて、その作用のメカニズムを明らかにする研究を、我々はさらに行う必要がある。 
処理前に対する相対変化(%)
 

[Reference] Cosmetics & Toiletries magazine, Vol. 110, Vol. 10, p.71 October 1995
●ボラージ油  ハーブの一種である、ボラージ(るりじさ)草から抽出して得た油で、γ-リノレン酸含有量が、月見草油に比べて高濃度である。 
●角質層  脊椎動物の表皮の最外層。  細胞は角質化し、内部を保護する役目をする。 
●不飽和脂肪酸の生体内代謝経路

サンスクリーンに関するQ&A

1.なぜ皮膚に対して太陽からの傷害を防ぐ必要があるのですか?
紅斑や水ぶくれの様な強度の日焼け(サンバーン)は基本的に太陽スペクトル中のUV-Bによって起こります。またこのUV-Bは遅発性の皮膚着色に関係します。一方、UV-Aはこんがりとした軽度の日焼け(サンタン)に伴って起こる皮膚の直接着色に関係があります。UV-AとUV-Bは共に角化症、皮膚ガン、しわ、皮膚の弾力性の喪失及び早期老化等、非可逆的な変化の発生に関係があると考えられています。
2.なぜUV-Aは大きい傷害を起こすのですか?
季節や日中の時間帯に関係なく、地表に到達しているUV-Aの量はUV-Bに比べて10倍以上あります。この放射線はUV-Bに比べてより深く皮膚に浸透し、従って真皮に対してより強い作用をもたらすことになります。UV-Aが皮膚や血管に対して極度に強い傷害をもたらすことが示唆されています。UV-Aは雲、窓ガラス、いろいろな種類の織物を透過するのみならず蛍光灯からも発生し、不幸にしてこれを避けることは不可能であります。
3.サンスクリーン剤を選ぶ時に特に配慮すべき重要なことは何ですか?
まずラベルに“広域スペクトルサンスクリーン剤”と言う表示があることを確認することです。これはUV-AとUV-Bを遮断するフィルタが共にサンスクリーン剤の組成分として含まれていることを意味します。UV-Aに対して防護の働きをするブチル-メトキシ-ジベンゾイル-メタン、ベンゾフェノン、もしくは色素類が少なくとも組成分の一つとして表示されていることを確認することが必要です。UV-BフィルタはSPFの値を決めるものであり、適切な防護にはその値が15以上で有る必要があります。 
4.SPF(サンプロテクションファクター:紫外線防護係数)とは何ですか?
SPFとは日光阻止因子を意味します。これは防護していない人が、与えられた条件の下で仮に15分で紅斑を発したとして、その人がSPF12を持つサンスクリーン剤で防護した場合、同一の日光条件下で、同じ紅斑を発するのに12倍の時間(12×15分=180分)を必要とすることを意味するものです。
この因子は、同一のスキンタイプについては常に一定でありますが、一方で外部条件は変動がともないます。すなわち、熱帯地域において、防護していない人が僅か10分で紅斑を発したとすると、同一の日光条件下でSPFが12のサンスクリーン剤で防護した場合、紅斑が発するのに120分(12×10分)しか持たないと言うことになります。
防護が行なわれていない場合、より緩やかな条件下において紅斑が発する時間は約30分位ですが、SPF12を持つサンスクリーン剤は、仮に適切に使用された場合、紅斑を発するまで約6時間(12×30分)の防護効果をその人に与えることができることになります。 
地表に到達する太陽光線 


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