1998年10月 No.93

血中β-カロテンとα-トコフェロールとの関係

宮崎大学・宮崎愛知病院・宮崎医科大学   富田 純史・斉藤 昇・濱田 稔
富田 純史

斉藤 昇

濱田 稔

〔要旨〕
    高齢社会を迎えて、高齢者でのビタミン状態が重要な課題となっている。とくに、増加しつつある痴呆性の疾患による入院患者では、加齢、疾患による障害、治療に伴う影響など多くの要因を抱え、この分野の研究の重要性と緊急性がある。この点を考察するとともに痴呆性の高齢患者における血清中カロテノイドと脂溶性ビタミンについての知見を紹介する。

   世界に長寿を誇る反面、高齢社会に突入した我が国において高齢者の健康は、豊かな老後の生活Quality of Lifeを享受するためであることはもちろん、財政を急激に圧迫しつつある医療費・介護費を軽減するためにも重要である。健康を維持し疾病を予防する上で栄養の適切な充足は大切であるが、高齢者では一般にビタミンが不足しがちであり、とくにビタミンA、B1、B2、B6、B12、C、Dが少ない1)。これにはいろいろな原因があるが、高齢者ではビタミン摂取不足というよりもまず食事の摂取量が少ないことが挙げられる。確かに栄養所要量のうちエネルギーについては生活活動強度にもよるが50才代に比べて60才代で80%、70才代で70%、80才代で65%と大きく減少していく。しかしビタミン類の所要量はほとんど変わらないため、単に食事の量を減らしてよいというわけでなく、質的に考慮されなければならない。高齢者では、咀嚼、嚥下の障害に加え、肢体が不自由となるために摂食行動が満足に行なえないことが多い。老化による消化、吸収、代謝等の諸機能の低下に加えて、高齢者の場合受療率が高く入院する者も多い。入院の原因となる疾患は循環系や精神障害等が多いが、ビタミン状態への影響としてはこれに直接由来するものと治療に伴うものがある。例えば脳血管疾患では、摂食行動の障害、運動不足による食欲不振、治療や治療薬に起因する食欲不振や嘔気が引き起こされる。生体防御機能が低下していることにより感染を受けやすく、感染時にはビタミン要求量が増し体内レベルが低下するところに抗生物質の投与が腸内細菌叢を変え、通常ならば自給可能なビタミンを十分産生できないことにもなる。利尿剤は水溶性ビタミンの損失を高め、広汎病巣の脳血管疾患障害でしばしば用いられる抗痙攣剤は、肝、腎の機能を低下させることでビタミンの代謝に影響する。ビタミンAの場合、肝で合成されるレチノール結合タンパク(RBP)が肝から血中への移行を規定しており、肝や腎の機能障害は直ちに血中レベルに影響する。     このような高齢者のビタミン状態を正確に把握するための研究が現在必要であるが、日本では健常者を対象にした研究に比べ高齢者を対象としたものは少ない。今後さらに増加すると考えられる痴呆性の寝たきり老人を扱ったものはさらに少ない2)。今回、我々は療養型病院内科に入院している痴呆性の患者のうち高齢の男女約100名について、血清中のカロテノイドと脂溶性ビタミンを測定する機会を得たので紹介する。一部は平成10年の第50回日本ビタミン学会で報告した。
    高齢者でしかも入院患者の場合には、血清中のカロテノイドや脂溶性ビタミンに影響する要因が多く一般的な傾向を述べることは出来ない。現在の所、サンプルサイズも小さいがそういった点を十分承知の上で今回の知見を紹介したい。
    大部分が脳血管疾患による痴呆の入院患者、女性83例、男性35例、計118例を対象とした。各平均年齢は、84.8±8.1才、77.4±12.8才で、全体として82.7±10.2才である。これらの対象者につき早朝空腹時に採血し、臨床生化学検査値とともにβ-カロテンを始めとする数種のカロテノイド、脂溶性ビタミンとしてレチノール、トコフェロールのレベルを高速液クロによって測定した。血中β-カロテンは平均43.9μg/dl、α-トコフェロールは615.4μg/dl、α-カロテンは13.2μg/dl、キサントフィルは33.4μg/dlであった。性別・年齢層別に比較すると(表1)、80才以上では女性は男性よりも、キサントフィル、α-カロテン、β-カロテン、α-トコフェロールが高く、レチノールで低かった。また女性において、60−79才から、80才代、90才代となるにつれて、キサントフィル、α-カロテン、β-カロテンとα-トコフェロールが増加し、レチノールが減少する傾向にあった。一方、男性では、β-カロテンは48−59才から60−79才、80−99才となるにつれて上昇したが、キサントフィル、α-カロテンでは横這いであった。α-トコフェロール、レチノールは48−59才から60−79才では減少したが、60−79才から80−99才で上昇した。TC. HDL-C. TGは、女性では60−79才から90才代へと減少した。 
   次に女性における偏相関では(表2)、α-トコフェロールは年齢、キサントフィル、β-カロテンと正相関を、またα-カロテンと逆相関を示し、レチノールはα-カロテン、α-トコフェロールと正相関を、年齢、β-カロテンと逆相関を示した。男性では、α-トコフェロールとβ-カロテンはキサントフィルと正相関を示した。
    血清カロテノイドの値は季節や性、地域によって変動するが、我々の研究を含めたこれまでの報告において、α-、β-カロテン、リコペン、β-クリプトキサンチン、キサントフィルは男性よりも女性において高く、年齢とともに増加する傾向が観察されている。これは横断的な研究であるので集団を長期間追跡する必要があろう。血清レチノールは、本来RBPによってコントロールされており比較的変化しにくい。α-トコフェロールはカロテン同様に年齢と共に増加する。 
伊藤らは7才から86才までの男性618名と女性1196名について、血中カロテノイド、レチノール、α-トコフェロールを測定している3)。β-カロテンは、女性が男性の2倍近い値を示し20才から49才では年齢と共に上昇し高齢の女性では少し低下したが男性では上昇した。 
女性で最も多いのはβ-カロテンとキサントフィルでβ-クリプトキサンチン、リコペンがこれに次いだ。 
男性ではキサントフィルが最も多く、β-カロテン、リコペン、クリプトキサンチンが同程度であった。レチノールはα-トコフェロールとともに、男女とも年齢と共に上昇したが、男性の高齢者では逆に低下した。β-カロテンとβ-クリプトキサンチンは喫煙や飲酒によって減少した。キサントフィルは喫煙により関連していた4)。このように、カロテンレベルが喫煙と飲酒によって低下することは多くの研究者が認めており、これらの影響に対してカロテノイド類や脂溶性ビタミンが防御的に働いている傍証の1つになっている。
    Batistiらは、20才未満から、20−40、40−60、60−80、80−100才までの健常者の血中ビタミンEを測定し、年齢と共に増加することを認めている5)。  
     今回は、脂溶性ビタミンとβ−カロテン、カロテノイドについての結果を紹介したが、水溶性ビタミンについても高齢者の病態との関連において重要性はいささかも劣るものではない。同様な研究がより広範に行なわれ、高齢者のビタミン状態について、さらに種々の疾患との関連において検討されることが必要であろう。とくに、比較的大規模な集団を低年齢時から高齢化するまでその生活習慣とともに長期間追跡することが重要である。 
〈参考文献〉
1.斉藤 昇:老年者の栄養、エッセンシャル老年病学(第2版)、小澤編、医師薬出版、東京、1995年 
2.斉藤 昇 他:老年医学36巻3号373-379、1998年 
3.Ito. Y. et al. Clinica Chimica Acta, 194, 131-144, 1990 
4.Ito. Y. et al., Int. J. Epidemiol., 20, 615-620, 1991 
5.Battisti, C, et al., Arch. Gerontol. Geriatr. Suppl., 4, 13-18, 1994

〈学会情報〉
●第3回「栄養とエイジング」国際会議  1999年9月21〜22日  東京  日本国際生命科学協会  電話 03(3318)9663  FAX 03(3318)9554 
●8th Asian Congress of Nutrition  Aug. 29-Sep. 2, 1999  c/o The Korean Nutrition Society #804, The Korean Science and Technology Center  635-4 Yeogsam-Dong, Kangnam-ku, Seoul 135-703, Korea  Phone:82-2-3452-0048  FAX:82-2-3452-3018  E-mail:tkns96@hitel.co.kr 
●January 22-23, 1999  Nutrition and Exercise: An Intensive Workshop, Ft Lauderdale, FL. CEU available for ADA, ACSM, AFAA, ACE, NATA, NSCA, and APTA. Contact Sports Nutrition Workshop, SportsMedicine Brookline, 830 Boylston Street, Brookline, MA 02467. (501) 821-3932. Fax 501-378-5008.


 
 
 

国際会議報告(The 3rd ISSFAL) 

ISSFAL会議で焦点となったLCPUFA
(PUFA Newsletterより)
ISSFAL(The International Society for the Study of Fatty Acids and Lipids:脂肪酸及び脂質研究の国際会議)で焦点となったLCPUFA(長鎖多価不飽和脂肪酸)。6月2−5日にかけて開催された、ISSFALの報告書の第2部を掲載する。

心疾患による突然死に対する予防効果
    魚の摂取はどのように心疾患による急死に対して予防効果を示すのか? 不整脈及び死の危険性に対する最良の代替となる測定は、心拍数の基線細変動(HRV)の減少である。デンマークのJeppe Christensenらは、n-3系サプリメントが心疾患の既往症の患者、慢性腎不全の患者でHRV値を上昇させることを示した。しかし、このことは健常人で有効なのだろうか? 彼らの最近の研究によると、男性では有効で、閉経前の女性では有効ではないようである。
試 験 者: Dr. Jeppe Christensen(デンマーク)
試験の種類: 介入試験
n-3系LCPUFA投与群: @低摂取量群  2g/日
  A高摂取量群 6.6g/日
  Bプラセボ 
試験期間: 12週間
評価項目: @心拍数の基線細変動(HRV)の24時間モニター観察
A顆粒球膜中 n-3系LCPUFA量
結   果: 女性では、何ら効果が認められなかったが、男性では印象的な効果が認められた。HRVが少量投与で3ミリ秒(ms)、大量投与で12ms増加し、細胞膜LCPUFA値も又上昇した。

介入試験の結果は、動物実験でも支持されている。
試 験 者: Dr. A Leaf及びJx Kang(ハーバード医科大学、アメリカ)
被験動物:
投与されたLCPUFA: 濃縮(エイコサンペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、α-リノレン酸(ALA)含有)n-3系油
投 与 法: 静脈注射 
投与時期: 冠動脈収縮の直前

    この手法は、順次不整脈を誘発するような、虚血をもたらす。LCPUFAは、電気的に筋細胞を安定化することで、致命的な不整脈を有意に予防した。この処置法でNa+とCa++の流れを阻害することにより、不活性化電位を安定状態にした。EPA、DHA及びALAは全て100%有効であった。(各々46、32、5頭の動物で)。いっぽうアラキドン酸(AA)は48頭の犬の内、18頭で良好な結果が得られた。しかし効果が他のLCPUFAよりは小さく、16頭で不整脈の遅延、残りの犬には何ら変化が認められなかった。また、飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸はどちらも何ら効果が認められなかった。これらの結果からLeaf博士は「これまでの研究データが示す通り、我々の研究室で得られた結果が生命を救い、人類に有効かどうかを考えるために必要な無作為の臨床試験を実施するための体制が既に整っている。」と述べた。 
    コレステロールを低下させる薬剤が、心疾患の患者の治療に利用できるようになったが、患者に食事についての勧告或いは介入が必要であるのか? 

 Tromφs大学のA Nordφy博士は、スタチン類はわずか数年間で利用できるようになり、一方で食事から摂取する脂肪酸と冠疾患(CHD)との関連性についての我々の知識は、臨床的、実験的、疫学的に半世紀以上に渡って増加していると指摘している。飽和脂肪は動脈硬化促進的に作用するが、一価不飽和脂肪酸は動脈の損傷の進展を阻害するらしい。また、n-3及びn-6系列のLCPUFAは、CHDの危険性を減少させるらしい、との報告がある。食事からのこれらの摂取量は、心臓の健康に重大に関わっている。
    Nordφy博士は、食事からの脂肪酸の摂取と共にスタチン類を摂取することが心臓を健康に保つことに良い結果を与えるという明確なデータがあると考えている。7ヶ国での研究は、北ヨーロッパでの生活が心臓血管の危険に関与していることを示唆している。即ちコレステロール値の上昇の危険性が寒冷気候でより高くなり得る。一方で、戦時中のノルウェーでは、魚が豊富で、飽和脂肪が不足していたために、冠疾患の死亡率が低下していた。魚を食べる習慣のある地域(日本、エスキモー自治区)では、魚を食事に補給しても目に見える効果が得られていない。が、魚を食べない地域では食事に少量の魚を加えることで、CHDの予防効果が認められている。
畜肉、魚或いは穀物油?
    LCPUFAはヒトで、血小板EPA値を増加させる。これらは植物、魚又は赤身の肉からも摂取することが出来る。最も良い供給源はどれだろうか? オーストラリアRMIT大学のAJ Sinclairらは、魚が、赤身の肉、穀物油、又は亜麻仁油と比較して良いことを見出した。
    23人の偏食癖のない成人群を対象にした1997年のMannらの以前の研究では、被験者に赤身の肉350g或いは大西洋サーモン(鮭)135gのいずれかを毎日摂食させた。2週間後、鮭摂取群では、血小板EPA値は1.3%増加したが、肉摂取群では、0.2%しか上昇しなかった。オーストラリアの研究者はこのデータに17人の菜食主義者に関する比較研究を付け加えた。全員にALAの豊富な食事(菜種油及び菜種油マーガリン:キャノーラあるいは亜麻仁油及び亜麻仁油マーガリン)のいずれかを2週間摂食させた、菜種油製品を摂取した群では0.1%、亜麻仁油製品摂取群では0.3%それぞれ血小板EPA値が上昇した。
    食事中のEPAとALA含量を分析した後で、彼らは血小板EPA値を上昇させるのには、1日にEPAを70mg摂取する方が、ALAを1日3.7g摂取するより有効であり、EPA70mg/日摂取と、ALA15.4g/日の投与とはほとんど同様の効果があると確信した。
     オーストラリア、アデレードのCSIRO研究所のPeter Howe博士とPeter Clifton博士は、2種類の魚油を比較した:特にDHAが豊富なNu-MegaとEPAが豊富なMaxEPAを比較検討した。30人の被験者は1日1カプセルを6週間に渡って投与され、4週間のウォッシュアウト期間の後、別のカプセルを6週間投与された。MaxEPAはEPAを350%上昇させ、DHA値を63%上昇させた。Nu-Megaは、EPA値を140%上昇させ、DHA値を130%上昇させた。これらの違いにもかかわらず、両方共血漿トリグリセリド値を26%、トロンボキサンの産生を40%減少させた。この結果は、EPAと比較してDHAがより効果的であることを示唆している。また、いずれの製品もこれらの軽度な高血圧の被験者で何ら血圧に変化をもたらさなかった。しかしMaxEPAはインターロイキン-1-βを低下させるのにすぐれていた。
注目すべきポスター発表
    ラットを用いた動物試験でMaxEPAとオリーブ油が比較された。その結果、MaxEPAは血漿トリグリセリド値を75%、コレステロール値を30−50%低下させた。血液凝固速度は、因子U、Z、[、\と]への作用を介して、30%遅くなった。血栓形成はオリーブ油と比較して、より小さく数も少なかった(アンドリアマンパン−ドライ、INSERM、ストラスブルグ)。
    LCPUFAは、遺伝的に決められた本態性高血圧の老齢ラットの血圧を減少させた。53週齢のラットにガンマ(γ)-リノレン酸、EPAとDHAを含有する濃縮製剤を与え、正常な固形飼料を投与し、非投与のコントロール群と比較した。5週間後、血圧は投与群で159mmHg、コントロール群で189mmHgであった。(Germain、ブルゴーニュ大学)。
    雌のラットに飽和脂肪酸を豊富に含む餌を妊娠前、中、後期に投与した場合(西欧型のヒトの食事の量に匹敵する量)、妊娠ラットの子供はDHA値で33%の減少が認められた。in vitroで研究した場合飼育15日後、大腿骨動脈の、アセチルコリンに対する反応が有意に減少し、酸化窒素供与体への感受性が減少した(ロンドンの聖トーマス病院、Koukkouら)。
妊婦及び授乳期のLCPUFA状態
    オランダのマーストリヒト大学のヒト生物学科のGerard Hornstra博士は、母親と胎児の必須脂肪酸(EFA)の関連性を検討した。LCPUFAの(血中濃度)は妊娠中では、40%あるいはそれ以上に増加する。これは食事内容の変化によるものでもなく、EFAの不飽和化及び延長化によるものでもない。これらのことから血中LCPUFAの増加について以下の2つの考え方ができる:妊娠は、LCPUFAをエネルギーから、「構成要素」に機能上の再ルート化の構築を引き起こすためか、或いはLCPUFAsが母親の貯蔵源から補給されるためである。もし後者が起きているならば、初産の女性とその新生児が、出産経験のある女性とそれらの子供よりもDHA値が高いのかを説明出来るであろう。
    家族の中の子供の人数が多ければ多い程、彼らのLCPUFA値がより低くなる。更に、臍帯血漿及び組織の測定値が示すように、双子と3つ子は、一人っ子と比較してこの値が低下している。
    この差は、臍帯血漿と比較して、臍帯組織値で更に顕著である。LCPUFAは臍帯組織に至る前に臍帯血漿に入るので、Hornstraによれば、胎盤のLCPUFAの輸送は、妊娠中に徐々に改善されることを示していることになる。このことは、LCPUFAの母親から胎児への運搬を促すように、特別な適応が発達することを暗示している。しかしながら、最近の研究結果によると、母親の食事が最適なn-3/n-6比より低い場合、正常な胎児の発達を損う可能性があると報告されている。
    母親のDHA値は妊娠の最初の6ヶ月間に上昇し、最後の3ヶ月で減少する。しかし授乳は母親のLCPUFA状態によって影響される、もしそうならば、どの位の量を母親が補給する必要があるのであろうか? マーストリヒト大学でHornstraと共に働いている。SJ Otto博士の研究結果では、LCPUFA値が授乳中の母親でより早く低下したことを示している。 
   この試験では28人の健常な妊娠した女性を募った。その内18人の女性はその後新生児に母乳を与える群になり、10人は母乳を与えない群に別けた。彼らの平均年齢は30才で、全員が正常妊娠日数で出産した。Otto博士らは母親の妊娠期間36週目と出産後2日目、5日目、1, 2, 4, 8, 16, 32, 64週目に採血し血漿中脂肪成分を測定した。彼らは、出産後最大16週までの研究結果を発表し、母親のDHA状態は出産の後、減少し続けることを示した。同様の低下は授乳中の母親でより多く低下することが断定された。出産後、母乳を与えていた母親は、母乳を与えない母親と比較して、初期にはDHA値が高かった:授乳中の母親と授乳していない母親では、総脂肪酸の重量当りDHA値はそれぞれ4.71%と4.07%であった。出産後1週間以内では2群は実質的に同値だったが、2週間後では母乳を与えている女性はそうでない群の3.71%と比べて、3.33%と顕著に低下した。4週と8週の間では、その値は両群共に妊娠していない女性のレベルまで低下した。2週以降になると、2群は急速に異なる血漿DHA値を示した:8週までには、授乳中の母親は非授乳の母親の3.37%と比較して、2.55%まで低下し(P<0.05)、16週ではそれぞれ3.43%(非授乳)と2.62%(授乳)になった(P<0.01)。
    全体として、妊娠36週と出産後の16週とを比較すると、授乳中の母親のDHA値は約45%に低下した。授乳していない母親はわずか15%しか減少しなかった。これらの結果を基にして、Otto博士及びHornstra博士は、授乳中の母親にDHAを投与することを勧告した
母乳栄養と発達
    サンパウロ病院及びミラノ大学の薬理学科のC Agostoni、F Marangoniaらは、母乳栄養を多様な視点から観察している。最初の研究は、母乳による授乳だけを行ない、その後少なくとも6、9或いは12ヶ月に渡って一部を母乳で授乳した健常な満期出産の新生児のコホート研究で、より長期間の母乳による授乳はより良好な発達をすることが、認められた。脂肪の供給は、エネルギーの供給源となり、そして或いは脳細胞膜の組成に影響すると研究家達は示唆している。全部で95人の新生児が算入照準を満たし、44人が12ヶ月に渡る試験を完了した。
    2番目の研究は、喫煙者は非喫煙者と比較して、初乳の脂肪値が高い傾向もあり(2.0対1.5g/d1)、特にn-6系LCPUFA値が高い。しかし、1ヶ月で状態が逆転し、非喫煙者は特にn-3系のEFAがより高くなる。この研究には、44人の母親が参加し、内22人が完了した:当初の44人の内、31人が非喫煙者であったが、一方で13人が1日5−15本の煙草を喫煙していた。後者の内6人は妊娠中も1日1−2本の煙草を継続して喫煙していた。
    3ヶ月に渡って、3番目の研究は、もっぱら母乳を授乳し続けた女性で脂質バランスが改善された。血漿脂質、総コレステロール、低密度リボタンパク質(LDL)、トリグリセリド値が30%の低下を示した。高密度リボタンパク質(HDL)値は上昇した。血漿n-6系PUFA値は上昇し、血漿n-3系PUFA値は低下した。彼らの母乳では、トリグリセリド及びC:18のPUFA値の値が上昇した。C:18 PUFA値は、血漿から母乳へ直接運搬される一方で、LCPUFA濃度は、乳腺によって調節されていることをこの結果は示している。 
健康な第3世界の新生児
    健康な第3世界の新生児(誕生時、少なくとも2750g体重で、産科学的、栄養学的及び小児学的な合併症がなく、母乳で育てられていると定義する。Michael Crawford教授らの調査研究によると、西欧の新生児と比較してDHA状態がより良好のようである。この利点は母親の食事が比較的低脂肪のメニューであることに基づいている。タイでは、脂肪に由来するエネルギーは16%に過ぎず、西欧食での40%と比べて低い。しかしこの値は、母乳の質に反映されているのか? 結果を得るために、研究者達は母乳の東西のDHA含量を比較検討した。タイ及びヨーロッパの母親について、年令、出産経過を調整し、母乳を同じ間隔でサンプリングした。
    出産後18週で母乳が成熟し、安定状態になった時に母乳中のDHA値を測定した結果、タイにおける母乳のDHA値は、西欧のものが0.33%なのと比較して、総脂肪の0.57%であった。このことは西欧の母親が0.15%なのと比較して、中国の母親では0.6%だった、以前の研究結果を追認するものとなった。Crawfordらは、西欧の高脂肪食がDHA値の低下と関連があり、更に総n-3系代謝物の0.9%に相当する量が(0.36g/kg/24時間あるいは0.11g/kg/24時間)、幼児の調整粉乳により適切であると結論した。幾つかの専門家委員会(FAO/WHO 1994、ISSFAL 1994)は幼児の調整粉乳は、母乳と同じようにAAとDHAを同パーセント含有すべきであると勧告している。しかし、市販されている調整粉乳のなかにはは、どちらも含んでいないか、或いは微量しか含んでいない製品があると彼は述べている。
不十分なDHA生成
    猫を用いた基礎試験で、DHA生成における最終の不飽和化段階が肝臓よりも脳で起きていることが示された:アメリカ合衆国のアルコール乱用とアルコール依存症に関する国立研究所、細胞膜生化学及び生物物理学の研究室に勤務するNorman Salem博士は、同じ結果がヒトにおいても真実なのだということを想定することは道理にかなっていることを示唆している。成人では、DHA/AA合成の程度が、食事の不適切さを反映しているらしい。新生児での、実験的データでは体内で合成されるDHAの量は発育上必要な量を供給するのに不十分であるらしいことを示している。「故に通常の食事条件下では、既に形成されたDHAを供給する必要がある(DHAとして摂取することを示す)。」 
    栄養不良の子供達は、EFAが不足しているし、標準的な医学療法では適切な時間内でEFAを補給することは出来ない。Virgilio Bosch、Sonia Bornoと、Maria Reymundez(ベネズエラ、カラカスの、セントラル大学の脂肪学部門)は5才未満の栄養不良の子供32人と、適切な栄養状態にある子供(対照群)22人とを比較した。WHOの診断基準を用いて、子供達は評価された。栄養不良の程度は10人が軽度で6人が中程度で16人が重度であった。非EFA/EFA比はコントロールで1.53で、栄養不全の子供達ではその比は、各々1.85、2.47と2.27であった。栄養不全の子供は血中のミード酸、パルミチン酸、オレイン酸が高値であった。
    著しいEFA欠乏は、栄養不良の軽度の症状でも明らかに認められる、一般的な特徴である。これらの子供は、母親が必ず働かなくてはいけないので、たったの1ヶ月で授乳期間が終了する。 
   ベネズエラでは、これらの子供への通常の治療は、コーン油及び動物タンパク質の食事からの補給を受けているが、このことはn-3系PUFAのゆっくりとした補給という点で不適切である。彼らは特別な補給が必要で、その結果EFAが全ての組織で早く補給されることになる。もし栄養不良の主要な合併症の一つが免疫不能であると、我々が考えるならば、これは特に重要であると付け加えている。
    フェニールケトン尿症(PKU)の幼児は、補給を考慮しなくてはならない、別のグループである。この出生時代謝異常症は、もし厳格な食事療法で治療されない場合、重度な精神障害遅滞を引き起こす。マーストリヒト大学病院のHouwelingen博士は、6ヶ月から25才の年齢のPKU患者について、EFA状態を相当する対照群と比較検討した結果、n-3系及びn-6系LCPUFAを含む脂肪の摂取量が低いことがわかった。また、。彼らの血漿及び赤血球ではn-3系が低く、n-6系は比較的高かった。「n-3系LCPUFAの食事からの低摂取により、PKUの患者はn-3系LCPUFA状態が低いと我々は結論付けている。これらの研究結果に基づいて、PKU患者用食事へのn-3系LCPUFA脂肪酸を補給することが考慮されるべきである。」
神経障害による疾病
    ボストンのタフツ大学とDJ Kyle(マルテーク社、バイオサイエンス部)は、平均年齢75才の高齢者1,188人について血液のDHA値を評価した。DHA値の2分値の低い群は、血液標本が摂取された時とで、アルツハイマーの発症率が2倍であった(11対5)。アルツハイマーに罹患していなくても、その後の10年でこの群の被験者は、60%以上発症した。魚の摂取或いは食事性サプリメントによる補給は、高齢者にとって血清DHAの適正値を維持するために重要であると彼らは結論付けている。
    S Connor博士は血漿n-6/n-3 LCPUFA比の高値は、高齢者での痴呆症及び死亡と相関するという報告をした。オレゴンHealth Sciences Universityからのこのチームは、オレゴン州の脳の老化試験での検体を用いている。データは1992−3年に集められ、分析は1998年に、完全なデータは49人の女性と36人の男性について得られた。これらのうち、14人で痴呆症の発症が認められ、11人が死亡した。
日本での研究
試験者:寺野 隆(千葉市民病院)
被試験者:高齢者(平均63才、血管性の痴呆症患者)
DHA投与群:720mg/日(6カプセル/日):12名
プラセボ:12名(他の痴呆症患者)
:6ヶ月
:@精神機能 A赤血球の形状可変性
B血小板凝集 結 果  :@改善 A改善 B無変化
    サプリメントを投与した群で、痴呆症スコアは、6ヶ月後コントロール群と比較して有意に改善された。赤血球の形状可変性は改善されたが、血小板凝集には変化が認められなかったと報告した。  
     高齢者は血液中のLCPUFA値が低く、食事性サプリメント投与で効果があることを、マルセイユにある老年病センターのヒト栄養学のINSERM部のE Polichettiらが報告した。すなわち、赤血球と血漿中DHA値を平均80才の47人の男性と女性で測定したところ、コントロール群と比較して、大部分のPUFAは減少し、DHAは25%低下した。 

 
 

身体活動とビタミン必要量@ 

ビタミンB群:エネルギー代謝に必須な触媒
    ビタミンB群は身体活動と運動に必須の栄養素である。何故ならば、これらは一般に有効なエネルギーへの炭水化物、脂肪、タンパク質の変換に含まれる重要な酵素の一部として機能しているからである。それ故、いくつかのビタミンB群の必要量はエネルギー摂取に関連している。例えば、ナイアシンの栄養所要量(RDA)は6.6mg/1,000cal(消費エネルギー)で、リボフラビンのRDAは0.6mg/1,000cal、チアミンのRDAは0.5mg/1,000calで1.0mg/日以下になることはない。同様に、ビタミンB5のRDAは推定されるタンパク質摂取量に基づいている。B6のRDAは女性で1.6mg/日、男性で2.0mg/日又は一日の消費タンパク質量1gについて約0.016mgとされている。ビタミンB群はまたDNAとRNAの合成や神経系の機能にも関係している。
    ビタミンB群はエネルギー産生、神経機能、身体を支持する構造の形成を維持(筋肉や骨)に必須の役割をもつので、欠乏状態になると、身体活動に障害をきたすことは明らかである。また、このような場合には、摂取量も不足していることが多い。明らかにビタミンB群が欠乏している場合、様々な欠乏症状が現れる(表1)。また、わずかなビタミンの欠乏も身体活動に影響をもたらす。例えば、チアミン、リボフラビン、ビタミンB6が同時に潜在性欠乏状態になると、2、3週間で身体活動の低下をもたらす。いくつかの研究では、トレーニングすることに慣れていなかったり、散発的であったりすると、運動する際、リボフラビンの状態が最も影響するらしいことが示されている。5つの異なる研究では、トレーニングを受けていない女性では、運動すると、リボフラビンの必要量が増加することが示された。これとは対照的に、トレーニングした女性を対象とした2つの研究では、必要量の増加は全く認められなかった。恐らく、リボフラビンの必要量は、運動プログラムの開始時に増加するが、トレーニングを受けた被験者では適応が生じ、RDAに近い摂取量で、リボフラビン状態を正常に維持できるようになったのであろう。しかしながら、他のビタミン類について、同様なことが起きるかどうかは不明である。 
   最も身体的に活発な人々は彼ら自身のエネルギーや微量栄養素両者の需要を満たすために十分な食物を消費するが、これがあてはまらない場合もいくつか知られている。身体的に活発な人々でエネルギー制限をしている人々はいくつかのビタミンの摂取が不足していることがある。低体重を維持するために食物摂取を制限している運動選手――体操、ダンス、ダイビング、フィギュアスケート、大学のレスリングなど――は、ビタミンの摂取が不足している可能性がある。体重を維持するために食事制限をし、日常的に軽い運動をしている人々でさえ、欠乏状態になる恐れがある。例えば、食事制限プラス適度な運動――エアロビクスを1週間に2.5時間――はリボフラビンの必要量を増加させる。

運動と酸化的ストレス
    非常に活発な身体活動を遂行することは、休憩時の10〜15倍に酸素の消費が増大する。これは、逆に骨格筋細胞でのフリーラジカルの産生による酸化的なストレスと脂質過酸化の増加をもたらす9−12。自動酸化による酸素ラジカルを生じるエピネフリンや他のカテコールアミン産生の増加を含め、運動は、又他の手段によるフリーラジカルを産生することになる。乳酸の産生は作用の弱い損傷ラジカル(スーパーオキシド)を破壊力の強いラジカル(ヒドロキシル)へ変換する;そして、過度の運動の結果として筋肉損傷への免疫反応は膜の脂質過酸化や損傷した筋肉でのマクロファージや白血球の増加に導く11。
    一般に、非常に活発な運動は、フリーラジカル産生の生化学的な指標で測定すると、過酸化脂質を増加させるという証明がある。特に、過酸化脂質のいくつかの副産物が、血液中(血漿MDAまたはマロンジアルデヒド及び共役ジエン)と呼気中(排出されたペンタン)で検出されている;しかしながら、これらの測定は不正確であると批判されている。酸化的なストレスが増加するという証明は、高度にトレーニングを積んだランナーにおけるビタミンEと抗酸化酵素値の上昇で測定されたものであるが、規則的な身体トレーニングが抗酸化状態を増強することになるという事実によっても推測される。 


 
 
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