1999年4月 No.94

第51回日本ビタミン学会を主催するにあたり

静岡産業大学国際情報学部   教授 富田 勲

はじめに
    すべての病気が毒素や細菌によっておこると考えられていた時代に、脚気という病気が微量栄養素の欠乏によっておこるとする考え方には、さぞ大胆な発想の転換が必要だったことでしょう。米(白米)を常食とするわが国で脚気が多発し、それを防ぐビタミンB1という因子が発見されたのは1910年のことです。以来、数々の病気、壊血病、ペラグラ、くる病、悪性貧血症などがビタミン発見の歴史となって来ました。その後、ビタミンが医薬品として広く利用されるにつれ、その作用メカニズムに関心が集まり、水溶性ビタミンの補酵素としての作用、あるいはたん白質の高次構造の保持にかかわる作用に目が奪われる時期がありました。最近では分子生物学の発展に呼応して、脂溶性ビタミンとその代謝物のシグナル伝達にかかわる機能に大きな関心が払われるようになっています。がん、循環器系疾患、そして精神的ストレス(酸化ストレス)という現代病の予防に抗酸化性ビタミンの効果が話題となっていますが、ビタミン作用の解明を通じた医薬品化への道が、現代病克服への道と一日も早く交叉する日が来ることを願っています。

    かねて準備を進めて参りました日本ビタミン学会第51回大会は、いよいよ目前に迫って参りました。今回の大会はすでにビタミン誌(第73巻1〜3号)で御案内の通り、6月3日(木)、4日(金)の両日、静岡県コンベンション・アーツセンター(通称グランシップ)で開催されます。JR東静岡駅すぐそばに、できたばかりの建物で、学会々場となる10、11階からの日本平や富士山の眺めはすばらしく、きっと皆様にご満足いただけるものと思っております。
    さて学会は6月3、4両日とも第1〜3会場にわかれて開催されますが、初日は午前9時20分より、また2日目は9時10分よりの開始となります。初日の午前はA、B6、B1、B2関係、また2日目の午前はカロテノイド、E、DおよびC関係のそれぞれ一般講演で、総会、評議員会、学会賞受賞講演、特別講演などはすべて初日の午後に配しました。特別講演は3題で、レチノイドの医薬化学(東大大学院薬学系研究科、首藤紘一教授)、補酵素科学の新しい世界(関西大工学部、左右田健次教授、京大名誉教授)、そして、ビタミンD作用の多様性から医薬品化への道(東京農大、西井易穂客員教授)で、発展の著しいそれぞれのビタミン分野での最先端のご講演が拝聴できるものと思われます。また学会賞受賞講演は立体構造をもとにしたトランスアミナーゼの研究(大阪医大、鏡山博行教授)、α-ケト酸の酸化分解を触媒するTDP酵素に関する研究(長崎大、医学部、小池吉子助教授)および奨励賞受賞講演としてレチノイド異性体の立体選択的合成とタンパク質機能解明への応用(神戸薬大、和田昭盛助教授)で、それぞれB6、B1およびA関連の酵素、あるいは機能性タンパク質に係るもので、いずれも受賞者の長年のすばらしいご研究の成果が被露されるものと期待されます。 
一般講演は全体で113題で、第1、2日目の午前の他、2日目の午後にE、UQ、B12、C、ナイアシン、葉酸などを配しました。例年通り、発表時間は質問を含め12分です。また会員懇親会は同会場の10階で、夕方6時過ぎからです。 
    さてご承知の通り、静岡はビタミンB1(オリザニン)発見の鈴木梅太郎博士(1874〜1943年)を生んだ地であります。博士がご卒業になった榛原郡相良町の地頭方小学校の校庭には博士の胸像が建っていますが、今年3月16日から配布の始まった、町の地域振興券に、博士の顔写真が登場しました(下記の写真をご参照下さい)。第51回大会では、学会々場に博士の記念写真パネルを展示し、一方、6月2日(水)午後1時から5時前まで、JR静岡駅を出発して、博士の生家(お墓)と、茶の郷(昨年4月オープンの博物館、茶室と庭園が美しい)を巡るツアーを計画しております(ビタミン誌1号参照)。ご参加の申込み(4月24日締切り)を期待しています。
    ビタミン学会を機に静岡にお出になる皆様、どうか一面に茶畑の広がる新緑の静岡で体一杯“ビタミンシャワー”を浴びて下さい。 

 
 
骨格筋のDHAとグルコースレベル
(PUFAニュースレターより)* 
    ドコサヘキサエン酸(DHA)のような長鎖不飽和脂肪酸(LC-PUFA)は、神経系だけでなく、糖尿病、肥満、高血圧や心疾患などの生活習慣病に対しても重要な役割をしている。これらの疾病はインスリン作用の不足と関係がある。インスリンは主に骨格筋にグルコースを取り込むことにより作用するが、細胞膜のリン脂質中のLC-PUFA含量が高い筋肉でより作用が促進することがわかっている。逆に飽和脂肪酸の多い筋肉で、インスリン低抗性が増す傾向がある。
    最近、LA Baurらは、母乳で育った子供は、人工乳で育った子供と比較すると、筋肉のリン脂質中のLC-PUFAの中で、DHAの占める割合が高いと報告した。
・対象:母乳群13名
人工乳群12名
結果:・筋肉のリン脂質中DHAの割合
母乳群  3.63%(P<0.0001)
人工乳群 1.84%
・LC-PUFAの割合
母乳群  30.24%(P<0.001)
人工乳群 25.17%
・空腹時血中グルコース濃度
母乳群  4.7mmol/l(P<0.02)
人工乳群 5.4mmol/l
    母乳児の筋肉リン脂質中のDHAは、母乳を止めると急激に減少する。そこで、母乳を摂取したことのない子供又は、最近摂取していない子供39人について、研究を行った。その結果、空腹時の血漿中グルコース値と、DHA(γ=−0.47、P<0.003:作図参照)、総LC-PUFA(γ=−0.38、P<0.05)の間に負の相関関係がみられた。
    研究者らは、母乳児の筋肉リン脂質の構成は、インスリン作用の正常な成人と類似しており、人工乳児はインスリン抵抗のある成人と類似していることも報告している。したがって、空腹時血漿中グルコース値が、母乳群の方が、人工乳群より、低いというのは、興味ある結果である。
以上の結果から、母乳に骨格筋リン脂質中のLC-PUFAを増加させること、また、LC-PUFAの割合が低い子供は、空腹時血漿中グルコース値が上昇することにより、インスリン低抗性が増し、これに関連する疾病を起こしやすいことが示唆された。
*Am. J. Clin. Nutr 68 ; 319-327 1998より
ビタミンK摂取量と腰骨骨折
(Am. J. Clin. Nutr 69 ; 74-79 1999より) 
    ビタミンKは骨たんぱく質(特にオステオカルシン*)で、グルタミン酸残基から、γ-カルボキシルグルタミン酸への反応に関与している。
    高オステオカルシン血清と低ビタミンK血清は骨密度を低下させ、腰骨骨折の危険率を増加させる。しかし、食事からのビタミンK摂取量の影響については、あまり報告がない。そこで、ビタミンK多量摂取により、女性の腰骨骨折の危険率が減少すると推定し研究を行った。
    38〜63歳の72,327人の女性を対象に食事調査と10年間の追跡調査を行った。その間、270の腰骨骨折があった。

表 ビタミンK摂取量による骨折の危険率

ビタミンK摂取量(μg/日) 危険率
@ <109   (14606人) 1.00
A 109−145 (14552) 0.80
B 146−183 (14569) 0.67
C 184−242 (14331) 0.75
D >242   (14269) 0.78

A-Dを合わせて考えると、@のグループつまり、ビタミンK摂取量の低かったグループが骨折の危険率が高かった。
今後、ビタミンKの所要量は血液凝固との関係と同じように、骨への影響も考慮し、設定されるべきであろう。

*骨の非コラーゲン性蛋白の約15%を占めるビタミンK依存性カルシウム結合蛋白であり、骨芽細胞で合成され、血中に放出される。骨代謝疾患における骨病変の進展の程度や予後の判定に有用である。
 

図 空腹時血漿中グルコースと筋肉細胞膜のリン脂質DHAの相関関係


 
 
 

スキンケア製品・日焼け止め製品の現状と新製品開発 

    日焼け防止とスキンケアには深い結びつきがある。日常のスキンケア製品には紫外線防止剤が入っているものが多く、最近の日焼け止め製品にもビタミンや保湿成分が入っている。
日焼け止め製品
    スキンケアのトレンドは多目的製品から特殊製品へ移行しつつある。高SPF日焼け止め製品(SPF15-25)の地位は揺るぎないものである。今後の課題は、日焼け止め効果をさらに高め、よりエレガントな化粧品にすることであろう。スポーツ用・ビーチ用製品は、バカンス中および週末のアウトドア活動の際に使用される。使用頻度は季節により異なる。SPF値が重要になってくる。製品はSPFで選ばれるため、紫外線A(UVA)やその他の光線からの保護作用はこれらの製品に不可欠である。こういった従来の日焼け止め製品は市場にとどまるであろう。SPFがどこまで高くなるかは、製品を市場で売買する関係者がSPFをどれだけ強調するかによるだろう。保護作用を至適とするためには、SPFはどのくらい高くあるべきかを以下で論じていく。
日常用スキンケア製品
    紫外線防止剤配合の日常用スキンケア製品はますます増えている。かつての多目的製品は今や広範囲の光線から皮膚を保護する製品となっている。日常生活で紫外線B(UVB)にさらされることは非常に少ないので、日常用スキンケア製品のSPFはそれほど重要ではない。そのため、SPFを表示していない製品もよくみられる。むしろ、UVA防止の方がはるかに重要である。というのも、UVAの85%は窓ガラスを透過し、光線による皮膚の老化に著しい影響を与えるからである。この種の製品は今後増加し、さらに重要性を増すであろう。特殊な目的によりよく沿う新しい紫外線防止剤も開発されるであろう。
特殊製品
    ダメージを受けた肌のトリートメント用や、人種別に開発された特殊製品の数も増加するであろう。日焼け防止をしないで美白製品を使っても意味がない!我々は現在、この目的のために最適な紫外線防止剤の配合法を研究している。このような製品は日常用スキンケア製品の典型例である。美白・日焼け防止効果の他、このような製品ではトリートメント効果や栄養付与効果も非常に重要である。
スキンケア・日焼け防止におけるビタミン
    ビタミンはこれまでスキンケア製品に広く使われてきており、将来的にもその使用はさらに拡大するであろう。酢酸ビタミンEは非常に安定な成分で、皮膚で代謝されて遊離ビタミンEとなる。ビタミンEはフリーラジカルによるダメージから皮膚を守る。ビタミンAは表皮細胞の正常な分化に不可欠である。クリームにビタミンAパルミテートを配合すると、皮膚の弾力性がアップし、皮膚が厚くなり、光線によるダメージから皮膚を回復させる効果があることがわかった。パンテノール(プロビタミンB5)は皮膚・毛髪中でビタミンB5(パントテン酸)に変わり、強力な細胞刺激効果を有する。ビタミンB5には傷を治し、皮膚を落ち着かせる効果がある。ビタミンCはコラーゲンの形成と機能に不可欠な補助因子であり、ラジカルスカベンジャーでもある。しかし、遊離アスコルビン酸の化粧品中における安定性の問題はまだ十分に解決されていない。 
リポソームとナノコロイド
    リポソームとナノコロイドは、化粧品の有効成分を輸送・保護するためによく使われている。リポソームは1層構造で、レシチンでできた二重膜を有する。粒子の大きさは100〜500nmである。親水性の有効成分で飽和させた水を粒子内に閉じ込めることができ、親油性成分は二重膜内に閉じ込めることができる。しかし、リポソームが収容できる親油性成分の量は非常に少ない。
    リポソームが角質層に浸透できるという可能性は非常に低く、科学的にもまだ証明されていない。リポソームが角質層に能動輸送されることはなさそうだが、角質層に入る有効成分の安定性を高める可能性がある。皮膚表面の脂肪はリポソームを急速に破壊する。そこで、レシチンが遮蔽層の働きをすることにより、有効成分の安定性と浸透率を高める可能性がある。
        ナノコロイドは1層構造の膜を有し、乳化補助剤を用いてレシチンの一重膜からつくられる。内部に親油性有効成分の油性溶液を閉じ込めることができる。有効成分が液体であれば、溶媒なしで入れることも可能である。
    リポソームとナノコロイドが収容できる紫外線防止剤の量は非常に少ないため、高SPF製品には向いていない。リポソームまたはナノコロイドに閉じ込めた有効成分は、拡散の法則に従う。リポソームまたはナノコロイドの内相と乳液の内相との間に交換が起こる可能性は高く、それは有効成分と相の性質に依存するであろう。この拡散を完全に排除することはできない。
SPFはどのくらい高くあるべきか?
    ヨーロッパとアメリカに見られる日焼け止め製品のSPF値は上昇し続けている。日本の日焼け止め製品でSPF123というものが現在の「世界記録」を保持しており、このSPF値の上昇は未だとどまるところを知らない。
さらに高いSPF値を求めての競争は、科学的問題でもなければ健康を心配しての結果でもない。SPFは単なるマーケティング上の議論であり、もはや皮膚の保護作用の基準ではなくなっている。

このグラフはSPFと光線の減少の関係を示したものである。SPF値が2で、すでに50%の紫外線が吸収されているのが明らかにわかる。SPF4で吸収率75%、SPF10で90%に達し、SPF100では99%となる(図1)。 

図1 SPFと紫外線吸収率の関係

    SPF25を超えると、標準偏差が大きくなるため人で測定することはできないという事実もあり、日焼け止め製品に30をはるかに超えるSPF値を表示することには疑問がある。
SPFと紫外線防止剤の濃度
    日焼け止め乳液中の紫外線防止剤の効果はいくつかの要因に依存している。例えば、皮膚での伸び、乾く速さ、乾いたときの状態などが効果に影響を及ぼす。
    また、紫外線防止剤の濃度とSPFとの間に比例関係はない。濃度を高くしても(法律上許されたとして)、期待どおりにSPFが上がるとは限らない。
    紫外線を吸収する分子は平面構造であるため、クラスターを形成する傾向がある。このようにクラスターを形成すると、効果が下がってしまう(図2)。
    2種類以上の紫外線防止剤を使えば、このようなクラスターの形成を最小限に抑えることができる。また、ポリマーの紫外線防止剤の中にもクラスター形成をある程度防止するものがある。そのため、SPF値のつり上げ効果をうたってこのような紫外線防止剤が売り出されることもよくある。
    ある組合せの紫外線防止剤は共同作用を有する。このような共同作用は製品の形状やその他の成分とは関係なく、紫外線防止剤どうしの相互作用の結果である。紫外線防止剤の組合せによって、単一の紫外線防止剤のSPFから計算するよりも最高で50%もSPF値を上げることができる。
UVAに対する防護
    太陽光線の1.5%(22W/m2)はUVB、6.5%(86W/m2)はUVA、39%(532W/m2)は可視光線、53%(722W/m2)は赤外線である。
    紅斑効果比はUVBが84%、UVAが16%である。
    UVBは最高96.5%が窓ガラスに吸収されるのに対し、UVAは15%しか吸収されない。UVBは角質層と表皮で100%吸収されるが、UVAの約35%は真皮に達し、生体細胞に影響を及ぼす可能性が非常に高い。
    今日、大部分の日焼け止め製品はUVAとUVB防止剤を組み合せている。しかし、将来はUVAに対する防護がますます重要となるであろう。UVAは皮膚の若年性老化の原因となり、光毒性反応を引き起こし、皮膚の弾力線維症を促進し、UVBが生体に及ぼす影響を増幅させる。 
    これらの吸収曲線は同一濃度の溶液(10mg/mlエタノール溶液)について記録されたものである(図3)。
    有機UVA防止剤で唯一登録されているのはブチルメトキシジベンゾイルメタン(パラソール1789)である。ベンゾフェノン-3およびメキソリルSX(ロレアル社が専属使用している紫外線防止剤)はUVA-Uすなわち「中間的」防止剤である。どちらの効果もブチルメトキシジベンゾイルメタンよりはるかに低いことは、試験結果を示す上図に示されたとおりである。
紫外線防止剤の皮膚浸透性
    紫外線防止剤の皮膚浸透性は低いほうがよいという傾向がある。現在の紫外線防止剤は、16時間でヒトの皮膚に2〜10%浸透する。これなら毒性の危険はないが、効果は減少する。なぜなら、紫外線防止剤の作用部位は皮膚表面だからである。紫外線防止剤の毒性的危険の評価においても、浸透率に注意が払われてきた。
    経皮の吸収は溶媒(乳液または溶液)から角質層へ紫外線防止剤が界面拡散する結果起こる。この拡散の程度は紫外線防止剤と溶媒の性質に依存する。溶媒は皮膚浸透性の重要なパラメーターである。紫外線防止剤の皮膚浸透性を減少させる化粧品成分として売られているポリマーも数種類ある。しかし、認識すべき重要な点は、化粧品の皮膚浸透性は反応の平衡の問題であるということだ。新たな成分の添加が反応の平衡に与える影響より、皮膚浸透性が減少する可能性もあるが、いずれにせよ完全に浸透を防ぐことはできない。
新製品の開発
    非浸透性ポリマーで、特に日常化粧品用に工夫された紫外線防止剤の登録がヨーロッパで進行中である。大量のシリコンをベースにしているため、他の紫外線防止剤と比べて特異的吸収度は低い(保護作用が低い可能性がある)が、分子が大きいので浸透率はほぼゼロである。
    さらに、ポリマー成分は角質層での安定性を増加させる。このような紫外線防止剤は昼用クリームにとって理想的な性質を有する。昼用クリームは1年365日使用されるものであり、高いSPF効果よりも、皮膚浸透性が最小限または無であること、皮膚によくなじむこと、安定性が高いことの方が重要だからである。

Rolf Schwatzenbach(F. Hoffman-La Roche LTD, ビタミン・ファインケミカル部所属)によるIMAGE’98(インド、Mumbaiにて)の発表より抜粋 

図2 紫外線防止剤分子の配置

図3 パラソール1789の吸収曲線


 
 
 

身体活動とビタミン必要量A 

<VNIS BACK-GROUNDER Vol.6, No.1より> 
酸化防御
    身体の酸化防御系ではフリーラジカルによる損傷を最小限に抑えようとする。この酸化防御系では、スーパーオキシドディムスターゼ(亜鉛、銅、マグネシウムなど)とグルタチオンペルオキシターゼ(セレンなど)と抗酸化ビタミンであるビタミンE、C、カロテノイド(β-カロテンなど)などの抗酸化酵素が働く。身体トレーニングにより、抗酸化酵素の働きが増大し、脂質過酸化が低下することが示されているが、どの程度で効果が生じるかは未だ解明されていない。酸化防御のシステムはトレーニングの積み重ねにより増大されるため、過重な運動になりがちである週末のみの運動者では、防御システムの強化は期待できず、酸化的ストレス状態に陥りやすい。
    ビタミンEは身体で最も重要な脂溶性抗酸化剤であり、フリーラジカルによる酸化から細胞膜を保護している。一方ビタミンCは効果的な水溶性抗酸化剤で、細胞内及び細胞間の液体部分に存在する。ビタミンC自体が抗酸化剤でもあり、またビタミンEを再生する能力もある。
    ビタミンEの運動に伴う酸化的ストレスの減少については以下のような報告がある。@フリーラジカルによる損傷の生化学的な指標がビタミンEの補給により減少した。A血漿MDA及び呼気中ペンタンがビタミンE、C、β-カロテンを含む複合酸化剤サプリメントにより減少した。しかし、運動による酸化的ストレスの減少の臨床的な有意性は未だ確認されていない。
筋肉損傷の緩和における抗酸化剤
    運動(特に不規則な運動)による筋肉の損傷は運動中に産生するフリーラジカルによりおこる。筋肉への損傷は、筋肉の裂傷と血漿への筋肉細胞からの酵素の漏出によるものである。これらは過剰な運動時などにみられる。筋肉の伸長は全ての運動時におこるが、踏み台の昇降やスキー、下り坂のランニングなどは他の運動と比較して逸脱性が高い。運動による筋肉の損傷は、筋肉機能障害や遅れてくる筋肉痛をもたらす。
    フリーラジカルが運動による筋肉損傷の主原因であれば、ビタミンE及び(或いは)ビタミンCの摂取量を増加することにより、特にトレーニングを積んでいない運動者において、筋肉損傷とその後の影響を緩和するといえるだろう。
    いくつかの介入試験を以下に示す。
・下り坂ランニング運動による酸化的ストレスへのビタミンEの効果
方法:二重盲検法
対象:男性の若年者(22-29歳)と老年者(55-74歳)
ビタミンE投与:@ビタミンE800IU/日投与群
Aプラセボ群
投与期間:48日間
結果:若年者より老年者の方が大きな効果が得られた。
・筋肉痛(ふくらはぎ)の発生率へのビタミンCの効果
運動前3日間と運動後4日間にビタミンC3000mgを投与した。その結果、プラセボ群と比較すると筋肉痛の発生率が少なかった。
・運動後の筋肉収縮能の回復へのビタミンCの効果
@ビタミンC 400mg/日投与群
AビタミンE 400IU/日投与群
Bプラセボ群
それぞれ運動前21日間及び運動後7日間投与した結果、ビタミンC投与群で運動後の筋肉収縮能の改善が認められた。
    これらの研究から、ビタミンEは酸化的ストレスや筋肉損傷を減少させ、一方ビタミンCは過剰な運動後の筋肉通を緩和し、筋肉機能を回復するということが考えられる。しかし一般的にこれまでの研究は被験者数が少ないため、今後運動による筋肉損傷に対する抗酸化剤の役割や、抗酸化ビタミンの補給による効果について研究を重ねる必要があるだろう。
ビタミンサプリメントと身体活動
    バランスのとれた適切な食事は身体活動において不可欠であり、栄養素欠乏は身体活動に悪影響を及ぼすことはよく知られている。したがって、マルチビタミン・ミネラルサプリメントは食事からの摂取栄養素の不足を補うものとして考えられている。疑問となるのは、適切な栄養状態にある人が更にビタミン・ミネラルの補助食品を摂取することにより、運動・労働能力に有益な影響を及ぼすか否かであるが、現在のところこのような結果は出ていない。
    ビタミンB1、B6、B12は神経系機能に必要な栄養素である。ある研究では、射撃の名手(広範囲の脳が複雑に作用すると考えられている)にビタミンB1、B6、B12を8週間投与した結果、的中率が増加したと報告している。しかし、一つの研究結果だけでは運動能力への効果が証明されたとは考えられない。
    ビタミンE補給が筋肉の酸化による損傷を緩和することは証明されているが、ヒトの身体活動への効果は認められていない。しかし、ビタミンEを300〜1200IU/日を高山の登山者に補給することにより、VO2maxが増加したという結果がある。これはビタミンE補給による抗酸化活性、あるいは白血球数の減少により、血液粘性が減少したためと考えられる。
    ビタミンEとは対照的に、約20の研究報告でビタミンC補給の身体活動への有効性が示されている。ただし、効果が得られなかったとの報告もほぼ同数あり、結論は出ていない。結果が違う原因として、実験前のビタミンC初期状態が影響していると考えられる。ビタミンCが低濃度の被験者は適正な状態の被験者よりも改善されやすい可能性がある。しかし、ビタミンCの代謝は運動による影響をうける(血中の増加または減少、尿中の減少、副腎や脳などの組織での減少、運動後のコルチゾールの減少など)。ある研究では定期的に活発な運動を行っている人は、ビタミンCの組織飽和量である100〜200mg/日を摂取すると良いとアドバイスしている。
    運動選手が鉄欠乏状態や、鉄欠乏性貧血を起こしやすいのは、長時間運動すると、汗と尿への鉄の損失や、胃腸内での血液の損失が増加するためである。特に女性は月経や食事からの鉄摂取不足のため、鉄欠乏性貧血になりやすい。検査により鉄欠乏が検出された場合、鉄の補給を勧められるだろう。血漿フェリチンを指標とした場合、女性の運動選手に鉄を50mg/日またはそれ以上投与すると鉄欠乏状態が改善される。しかしこのような大量摂取は、胃腸の痛みや亜鉛吸収妨害を起こし、血色素症の患者では反対に症状が悪化する。鉄欠乏状態を改善するには、食事やサプリメントで50〜100mgのビタミンCを摂取し、鉄の吸収を増加させるのが安全な方法である。 
運動に伴う危険性
    運動は健康を保つ上で有効であるが、同時に危険も伴う。しかし、これらは適切なビタミン摂取により緩和される。運動することにより呼吸が著しく増加するため、身体活動が活発な人はそうでない人と比較すると、呼気量が多い。また多くの運動は屋外で行われるので大気汚染、過度の暑さや寒さや紫外線への曝露が増加する。大気中にあるオゾンやNO2は強酸化性物質であり、肺の損傷や慢性の障害性疾患、肺気腫、喘息の原因となる。
いくつかの研究結果を以下に示す。
・運動している健常者と成人の喘息患者をオゾンとNO2に曝露後、鼻孔の圧迫、吸入した気管収縮剤への反応の増加がみられた。
・動物実験:ビタミンE、CはオゾンとNO2の毒性に対し保護効果があった。
・ビタミンCは運動中のNO2による副作用を軽減した。
・非喫煙者で血漿ビタミンE値と肺機能との間に正の相関関係があった。
    ビタミンCは暑い環境下での運動時の熱ストレスを軽減すると示唆されており、1970年代の南アフリカでの研究に基づき、南アフリカの炭鉱労働者にビタミンC補助食品が定期的に投与された。 
・対象:南アフリカの炭鉱労働者
・投与:ビタミンCサプリメント250mg/日または500mg/日を10日間
・結果:10日間の暑さへの順応に効果があった。
 直腸温度及び総発汗量が減少した。
    しかし、適正な栄養状態の人では同様の結果は出ていない。また他の研究では、500mg/日のビタミンCを投与しても休息時及び運動中の脈拍数、直腸温度などへの効果は認められなかった。
    紫外線への曝露は皮膚を急速に老化させ、皮膚がんや白内障の発生率を増加させる。これらの一部は、活性酸素自身ではなく紫外線が一重項酸素の生成を刺激する時に酸化的損傷を起こすことが原因である。一重項酸素は反応性が高く、日光に曝露された人々の酸化的損傷の主要原因である。β-カロテンは一重項酸素の強力な“消去剤”として知られている。紫外線への曝露は血漿β-カロテンを低下させ、免疫反応を抑制する。β-カロテン投与すると、紫外線に曝露された人の免疫反応が強化される。ある動物実験では紫外線照射により誘発された皮膚ガンを阻害した。ビタミンEもまた皮膚での紫外線障害に対して保護効果がある。ビタミンEとCの経口投与或いは局部への塗布は日焼けに伴う皮膚の赤色化を阻害する。 

 
 
 

喫煙者に対して抗酸化栄養素を摂取させた場合の体内脂質過酸化度の改善効果 

<Antioxidant Vitamins Newsletterより>
    煙草の煙に曝されることによって、脂質過酸化が促進されるという報告が以前にされており、この事が喫煙と関連する疾病の原因では無いかと考えられている。
    ここに紹介する報告は、ビタミンC、Eおよびベータ・カロテンを添加した、トマトジュースを喫煙者に飲ませた場合の体内脂質過酸化指標の変動を調査したものである。
    以下に試験の概要を示す。
試験機関:ワシントン大(シアトル)
被 験 者:公募された喫煙者39名(平均年令:約28才、喫煙本数:約13本/日)
以下の人は対象外
総コレステロール;6.2mmol/L以上、LDLコレステロール;4.1mmol/L以上、トリアシルグリセロール;3.4mmol/L以上の重度高脂血症者。
 心血管に異常がある人、糖尿病者、癌患者、吸収不全者およびビタミンサプリメント常用者。
摂取食品:トマトジュース:ビタミンC 600mg、ビタミンE 400IU、ベータ・カロテン 30mg 含有を毎日飲む
プラセボ群は無添加トマトジュース
評価項目:血漿脂質、ビタミン、カロテノイド、LDL酸化、呼気中ペンタン、総パーオキシラジカルトラッピングポテンシャル
評価時期:摂取前、摂取後 4および8週間
結  果:抗酸化栄養素添加トマトジュース群で共役ジエンの誘導時間の有意な遅延と過酸化反応進行速度の有意な低下 

 
 
 
当センターのホームページ開設に関するアンケート調査におきましては、皆様から貴重なご意見等をいただき、誠に有り難うございました。皆様からのご回答を基に今後の方針を決めていく予定ですが、現在のところ、ホームページ開設が確定しておりませんので、しばらくの間、従来通り、本紙を送付させていただきたいと存じます。今後ともよろしくお願い申し上げます。

 
お願い 
ニュースレターの宛先の変更、削除につきましては誠にお手数ですが、宛て名シールの番号を明記の上、郵便又はFaxにてご連絡下さいます様お願い申し上げます。

 
タミン広報センター(略称 VIC)は、国内外に於ける最新のビタミン研究の成果を科学的に正確に保健、栄養関係者および消費者の皆様に提供しております。当センターは1981年に設立されました。 港区芝2−6−1 〒105-8532 Tel(03)5763−4119 Fax(03)5763−4121