図1 カテキン(EGCG)の化学構造
表1 カテキンの効果・効能
抗酸化、抗突然変異、抗がん、血中コレステロール上昇 抑制、血圧上昇抑制、血糖上昇抑制、血小板凝集抑制、 抗動脈硬化、抗菌、消臭、抗う蝕、抗ウィルス、腸内細
菌叢改善、抗アレルギー
さて、例年3月に開催される茶学術研究会は今年は第18回を数え、3月13日、静岡市のブケ東海で開催された。一般講演としては、カテキンの、冷蔵庫(冷却ファンなど)や、エアコン(フィルターおよび送風ファンなど)における消臭、
抗菌、抗カビ効果(日立ホーム・アンド・ライフ・ソリューション(株)・船山 ら、泰陽(株)・滝本ら)とその機序について、またカテキ
ンとセラミックスの結合体(カテキンハイドブリッド)に、 更にビタミンC-2-リン酸エステルマグネシウム塩を共存させ た場合のカテキンの徐放効果について(チッソ(株)・畠山
ら)報告があった。いずれの場合もカテキンの優れた効果が確認されているが、特にエアコンへの応用においては、アンモニアなどに対する消臭効果はもとより、シックハウス症候群の原因物質とされるホルマリンの除去に優れた効果がある茶の生葉を嫌気状態で保管すると、γ-アミノ酪酸(GABA)が増える。この反応を利用していわゆる"ギャバロ
ン茶"が製造されているが、水流ら((株)伊藤園)は緑茶 抽出物を乳酸菌(L.brevis)で発酵させることによりつくった甘い花香のある新しい茶飲料について述べた。この他、四国
地方で古くから生産されている碁石茶や阿波番茶抽出物のヒ ト白血病細胞(U937細胞)に対する増殖阻害効果(高知工科 大学・佐塚ら)や、カテキン(EGCG)のヒトへの経口投与に
おける体内動態について(スイス,ロシュ・ビタミン社・ Raederstorffら)の報告があった。緑茶抽出物から調製されたEGCG94%を含むカプセルをボランティアに単回(EGCG
50 〜1,600mg)、あるいは反復(EGCG 200〜800mg、10日間)経口投与した際の血中濃度の推移について詳しい報告があった。
血中濃度は1〜2時間で最大で、用量依存的に増えること、また半減期は4〜5時間で、蓄積性のリスクが低く、耐容性の高いことが明らかにされた。
本研究会では、茶の学術研究を助成する目的で、毎年助成希望者が公募(昨年度は6月1日から7月31日迄)されている。 昨年度の応募者は17名で、5名が選ばれ、今回の講演会でそ
の成果が発表された。演題と発表者は下記の通りで、いずれもアップツウデートで極めて興味のある内容であった。
- 市販緑茶の品種鑑別法の開発 (農業技術研究機構野菜茶業研究所 氏原氏)
- 茶カテキン類の機能性にかかわる化学的基盤の確立 (長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 田中氏)
- チャのシュウ酸生合成に及ぼす環境要因の解明と低シュ ウ酸茶の開発(静岡大学農学部 森田氏)
- 茶葉成分テアニンのグルタミン酸刺激による大脳皮質神 経細胞死に対する保護効果及びその分子機構に関する研
究(京都薬科大学 長澤氏)
- 烏龍茶や紅茶の花様の香りはどのように生成するのか? β-プリメベロシダーゼによる香気生成機構の解明
(京都大学化学研究所 水谷氏)
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この他、本研究会のハイライトとも云える特別講演は下記の2題であった。
- 緑茶ポリフェノールを用いた細胞増殖制御と生体組織の 常温長期保存(京都大学再生医科学研究所 玄氏)
- 茶カテキンによるDNA酸化損傷抑制効果 (東京都老人総合研究所 金子氏)
これらの報告の詳細は紙面の都合で割愛するが、全般的にはカ テキンのもつ物性(水、油双方に溶解する)が、ビタミンE やCと異なって表われているように思われた。
カテキンは、勿論、生命に直接かかわるビタミンではないが、ヒトの健康の維持、増進に深くかかわる"健康因子(ヘ ルス・ファクター)"である。近年、カテキン(EGCG)の3位
置換没食子酸の3"位がメチル化されたいわゆるメチルカテキン(化学構造については図2参照)を含む茶種、例えばべに ふうき(元来、紅茶品種)から調製された緑茶に抗アレルギ
ー効果があるとして注目されている(このことについては既 に第17回茶学術研究会において、山本万里氏によって詳しく 講演されている)。興味あることにこのメチルカテキンの含
有量は茶種によってかなり異なる。最近の研究では、べにふうきの他のべにふじ、べにほまれ、やまかい、おくみどりな どの品種では、乾燥茶葉100グラム当たり0.4〜1.3グラム程度含まれているが、わが国で緑茶用茶種として最もポピュラ
ーなやぶきた種には、全く含まれていないという(RYOKUCHA Vol.6,p.39〜40,2003)
図2 メチルカテキン(EGC3"MeG)の化学構造
これまでお茶の生産、あるいは製品化にあたって重要視さ れてきた香りや味と並んで、いわゆる生体調節機能の高さを視点としたお茶の製造が求められる時代に入ったといえる。
いずれにしてもこれまで、カテキン、特にEGCGを中心に多くの研究成果を生み出してきた広い意味でのポリフェノールの 研究は、周辺の領域を巻き込んで更に発展し、近い将来、ビ
タミン以外の"健康因子"としての位置づけを決定的にするものと思われる。
最後に当日の本研究会では、長年にわたって茶学術研究を リードされた下記の3氏が茶学術顕彰の栄誉を受けられた。 日本茶業技術協会顧問・元農水省茶業試験場場長・中川政之氏、静岡大学名誉教授・小西茂毅氏、伊藤園中央研究所・元
農水省茶業試験場製茶部長・竹尾忠一氏
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