2004年5月 No.108    PDF

生活習慣病における食事とビタミンのコラボレーション

せんぽ東京高輪病院栄養管理室長 足立香代子

 


  足立香代子 氏

はじめに
 一般食品以外でビタミンを食品 として補完する「栄養機能食品: Food with nutrient function claims」が、「保健機能食品: Food with health claims」制度 創設に伴い、基準化された。この 食品の目的は、身体の健全な成長、 発達、健康の維持に必要な栄養成 分(ミネラル、ビタミン等)の補 給・補完にあり、高齢化や食生活 の乱れ等により、通常の食生活を 行うことが難しく、1日に必要な 栄養成分を摂取できない場合等に、 栄養成分を補給・補完するもので ある。表示が認められたビタミン は、A、D、E、B1、B2、B6、 B12、C、ナイアシン、葉酸、ビ オチン、パントテン酸の12種類で ある。しかし、問題は、どういっ た人がどのようなビタミンが不足 し易いか、あるいはより積極的な 補完が必要かを一般食品の摂取の 程度に応じて勧めることである。

 1.国民栄養調査と当院の献立からみ たビタミン摂取状況
 平成13年の国民栄養調査によるビタミンの 摂取状況は、第5次栄養所要量と比較すると 男性でビタミンB1、B6、E,ナイアシンが75 〜85%の充足率を示すものの、女性では概 ね足りているようである。しかし、ここに は若干の落とし穴がある。何故なら健康維 持のためには、脂質比を25%以下にするこ とや、肥満しない程度のエネルギー摂取が 必要であるとしながら、これらが多い世代 もある。すなわち、ビタミンEは油脂から 摂取することを考えると、充足率はこのま ま鵜呑みにできない。 当院の一般常食(約2,000kcal)と糖尿病 1,600kcal食を検討した結果、国民栄養調査 と同様に2,000kcal食ではビタミンE,B6が 充たされておらず、1,600kcal食ではさらに B1が足りなかった(図1)。一方、ビタミン A(レチノ−ル)・D・B12は、いずれの献 立においても充足されていた。  充足率が極めて少ないビタミンEを食品群 別に一般常食の摂取量と栄養所要量に対す る割合をみると、ビタミンEは、油脂から2.6 mg(26%)、緑黄色野菜から2.0g(20%)、 魚介類から1.6mg(16%)補給していた(図 2)。これが糖尿病や肥満の人に提供するエ ネルギー制限食である1,600kcal食になると、 当然添加する油脂や脂肪の多い魚介や肉類 まで減らすため、ビタミンEは5.4mg(54%) にしかならない。こうして考えると、エネ ルギー量が少ない、あるいはダイエット中 の人、魚介類が少ない人、外食が多い人では、 相当所要量を下回る。言い換えれば、余程 の知恵を持って食品を選択しない限り、油 脂の摂取が少ない人はビタミンEを充足で きないことになる。

 次にビタミンB6はどのような食品から取っ ているかを2,000kcal食の献立で検討した結 果、野菜・果物から0.72mg(44%)、魚介 類から0.27mg(38%)と、極めて限られた 食品から摂取していた(図3)。国民栄養調 査の年代別摂取量を観察すると、ビタミンB6 は男女共15〜49歳で充足されていないこと から考えると、50歳を越してようやく野菜 や魚介がとれ始めるのであろうことが伺える。

2.サプリメント摂取の実態と食習慣
 国民栄養調査によれば一般の食品以外でビ タミン・ミネラルを摂取している人は、「ほ ぼ毎日」との回答が男性65.3%、女性67.4 %あり、男女ともにいずれの年齢階級でも 「ほぼ毎日」と回答した者が最も多かった。 問題は、欠食者では野菜の摂取量が少なく、 サプリメントの利用者も多かったことであ る(図4)。さらに補給している種類を年齢 階級別にみると、15〜49歳では男女とも「ビ タミンC」のサプリメントが最も多いとい うから、野菜不足を自覚しているか野菜の 代替になると思っているように読める。一 方50歳以上の男性では「ビタミンB1」、女 性では50〜69歳では「ビタミンE」が最も 多いと報告されている。  当院の2,000kcal食の献立でみると、野菜 からはビタミンCだけではなく、ビタミンB6 を約40%、ビタミンEを約20%、カルシウ ム25%の他に、葉酸、鉄分、食物繊維など の栄養素をも摂取している。すなわち欠食 している人は、他の栄養素も不足すること になる。当然、「食事から必要な栄養素を とれていない」人や欠食している人は、改 善すべきであり、このことへの教育が必要 なことは言うまでもない。しかしながら、

 

改善が十分でない人には、個々人の食習慣に併せたビタミ ンの補完ができるようにしていく必要がある。

図1 一般食・1,600kcal食のビタミン充足率(50〜60歳男性)

3.ビタミンは個々人の状況・食習慣に応じて補完
1)ダイエット中、糖尿病・高脂血症の人
 減量を試みようとしている人は、エネルギー制限を行うた めに穀物や油脂、肉類を減らす傾向にあり、ビタミンB1不足 を招きかねない。しかし、糖質を制限される糖尿病の人や肉 食の量を控える必要のある高脂血症の人は、適正な食事療法 を行えば行うほど不足栄養素が出るといった矛盾が生じるこ とになる。疲れ易い、集中力が無い、苛立つなどの症状が現 れた場合は、ビタミンB1不足を推測して確認する必要がある。 すなわち、「穀物を減らしましょう」を言い換えてみれば、 「たんぱく質、食物繊維、亜鉛、マグネシウムをも減らしま しょう」と言っていることになる。また、油脂を減らした結 果、ビタミンEが減り、肉類の制限によりビタミンB1、B2、 B6などの充足が難しくなる。したがって、減量が必要な人 やすでに糖尿病や高脂血症の傾向がある人は、一般の食品の 他にビタミンEやC、β-カロテンなど抗酸化物質を補給す るのが望ましい。  
  なお、ビタミンB6は、過剰摂取により知覚神経障害が起き たという報告があり、日本の成人の許容上限摂取量は100mg と定められているので注意する。

2)野菜・海藻不足の人、外食・ストレスが多い人  野菜不足は、外食をする人に多い傾向がある。こうした人 はビタミンC、B6、E,β-カロテン、それにカルシウム、 カリウムが十分にとれない(図5)。この改善ができない人 は、これらを含んだ栄養機能食品や青汁、クロレラ、麦類若 葉食品、まこも食品、ビタミンE含有の植物油などが勧め られる。なお、ストレスが多い人は、尿中にビタミンC、カ ルシウム、マグネシウムが排出されるため、野菜や乳製品を 摂るか、それが難しい場合は、サプリメントを利用する。

3)大量の飲酒習慣があるが節制ができない人   大量の飲酒習慣がある人は、食べ物を食べない、食べたと しても野菜や海藻は食べない、挙句が朝食欠食で昼食外食と いった行動をとり易い。すると、当然不足するビタミンは相 当な種類になる。野菜不足によるビタミンB6、C、E、K、葉 酸だけでなく、穀物からのB1などあらゆるビタミン不足が生 じ易い。ましてや大量の飲酒者は、腸管からのビタミンDや ビタミンK、葉酸の吸収が悪くなり欠乏症を引き起こすこと があると言われている。したがって、まず緑黄色野菜の摂取 に努めることだが、困難であればマルチビタミンあるいは麦 類若葉食品、クロレラなどハーブ類や藻類サプリメントで補 完する。
 なお、葉酸は1日に5,000μg以上摂取すると、ビタミンB12 不足による症状を隠し、神経への損傷を引き起こすことがわ かっているので、ビタミンB12のサプリメントと併用するこ と。そして許容上限量である1,000μgを超さないようにする。

4)禁煙ができない人
 喫煙習慣のある人は、ビタミンCの消費が多いことや組織 内に貯蔵されたビタミンB12を減少させること、さらには喫 煙が葉酸や亜鉛の血清濃度を有意に低下させるなどが分かっ ている。優先すべきは、当然禁煙だがこれができない場合は、 野菜や果物を摂ることである。この改善もできない人は、ビ タミンCと葉酸を含んだ栄養機能食品、あるいはビタミンC 含量の多い麦類若葉食品、クロレラなどで補給する。


図2 一般食の食品群別ビタミンE摂取量と食習慣
図3 一般食の食品群別ビタミンB6摂取量と食習慣


5)中高年に勧められるビタミン
 活性酸素(フリーラジカル)は、老化を早めるだけでな く、血糖値や血清脂質が高めの人では、活性酸素を抑える抗 酸化物質であるビタミンEやC、β-カロテン、コエンザイム Q10、イソフラボン・ポリフェノール・リコピン・キトサン ・カテキン・ゴマリグナン(セサミノール)などをより積極 的に補給するのが望ましい。このうち、コエンザイムQ10 は、酸化されたビタミンEを還元して、安定したビタミンEに 戻す作用があることが分かってきたもので、ビタミンCやE を単独で利用するより、抗酸化力が長続きし易いと言われている。

図4「不足している栄養成分の補給」を目的としてビタミ ン・ミネラルをのむ者の欠食状況別野菜類摂取量

4.ビタミン補完上の留意点              
 摂り方、選び方の留意点としては、@成分表示、原材料名 を見る。A過剰あるいは毒性のある栄養素や食品があること を知っておく。B腎臓疾患・アレルギー・妊娠、薬物の相互 作用があるかを確認する。C個々人の食習慣による栄養素の 過不足を推測してから選択する。D決められた方法と量を守 る。E少ない量で様子をみる。F1日分を1度に摂るより、2 〜3回に分けて1日均等に摂る。G複数摂取していないかを確 認するなどに留意する。腎疾患があれば、たんぱく質、カリ ウム、リンが多いサプリメントは避け、妊娠している場合は、 専門家に相談するまで摂らないことである。

5.おわりに                      
  国民の食習慣は、世代、性別にもよるが欠食、外食習慣、 惣菜の利用、ファーストフードの利用、和食から洋風料理へ の移行など変化してきた。こうした食習慣がある人では、さ まざまな栄養素の過不足から高脂血症や糖尿病などの生活習 慣病の要因となったと言える。しかし、良くないだろうと思 いつつも改められない人はいる。代替食品としてビタミンサ プリメントを利用しようとするのは、むしろ健康・栄養に関 心があるグループかもしれない。そうであれば、なんとかサ プリメントの補完に併せて、徐々に食習慣を改善するように 導けば、利用価値も高いと思われる。

生活習慣病:肥満と糖尿病の現状
資料:厚生労働省(平成13年国民栄養調査、平成14年糖尿病実態調査)

糖尿病
平成14年糖尿病実態調査速報

調査客体: 5,792名(男性2,369名、女性3,423名)
調査時期: 平成14年(2002年)11月
  国民栄養調査・身体状況調査と同時に実施
肥満
肥満者(BMI25.0以上*)の割合

 
男性
女性
 

%

n数(人)

%

n数(人)
20-29歳
18.1
414
7.4
552
30-39
29.3
559
14.3
753
40-49
31.8
620
17.1
759
50-59
31.9
744
25.1
916
60-69
31.2
693
30.5
832
70歳以上
21.0
585
28.8
817
総数
28.0
3,615
21.6
4,629

糖尿病が疑われる人の推計
 
平成14年 
平成9年
糖尿病が強く疑われる人
約740万人
約690万人
糖尿病の可能性を否定できない人
約880万人
約680万人
合計
約1,620万人
約1,370万人


加齢黄斑変性(AMD)と抗酸化物質
Hannah Bartlettら, Ophthal. Physiol. Opt. 2003 23: 383-399より

 加齢黄斑変性(AMD)は先進国における失明の原因の一つである。効果的な治療がなく、酸化が要因のひとつと考えられて いるため、抗酸化栄養素摂取による防御的な効果に関心が高まっている。本稿では、AMDにおける抗酸化物質摂取の効果に関 して調査した7つの無作為割付比較対照試験をレビューしている。これらのうちAREDS、LAST、Newsomeらによる亜鉛試験の3 つの研究では、AMDに対して抗酸化物質摂取の効果が観察されている(表1)。以下に抗酸化物質によるAMDへの効果が観察さ れたLAST研究の概要と、これま
での研究結果から考えられる、各抗酸化物質とAMDとの関連性についての考察を紹介する。

LAST(The Lutein Antioxidant Supplementation Trial)
対象 萎縮型AMD患者90名、平均年齢74.7±7.1歳
方法 患者を3群に割付(年齢やAMD発症時期、喫煙、心血管    系疾患暦、水晶体混濁、栄養状態などを調整)
@ルテイン摂取群:10mg
Aルテイン+抗酸化物質摂取群:10mg
Bプラセボ群
評価項目 水晶体混濁度、グレアテスト、低ルミナンス・      低コントラスト視力、コントラスト感度、等
結果 ルテイン摂取群およびルテイン+抗酸化物質摂取群にお    いて、グレアテスト、コントラスト感度などが有意に改善された。

<ビタミンC>
 ビタミンCは水溶性の抗酸化物質であり、ヒドロキシラジ カル、スーパーオキシド、一重項酸素などに対する効果があ る。EDCCSグループによる研究では、血漿中ビタミンC濃度が 低いとAMDリスクが増加するが、血漿中ビタミンC濃度が高い 場合の防御効果は観察されなかったと報告されている(The Eye Disease Cae Control Study Group, Arch.Opthalmol.111,104- 109,2003)。フリーラジカルによる組織の酸化的障害に対する 予防効果の中には、疾病の促進を遅延させるという効果も含まれるであろう。

<ビタミンE>
 ビタミンEはα-、β-、γ-、δ-トコフェロールという4 種類がある。ヒトの網膜や血漿で最も活性があるのはα-ト コフェロールであり、抗酸化力も最も強力である。ビタミ ンEのAMDに対する防御効果は、AMD患者の摂取または血中の ビタミン濃度などに関する疫学調査結果により示唆されて いる。ビタミンEは網膜内に多く存在し、脂質の過酸化を防 いでおり、一重項酸素除去効果もある。ビタミンEは加齢に より血漿濃度が減少するが、多量に摂取することにより網 膜内の濃度は増加する。また、血漿ビタミンE濃度が増加す るとAMDリスクが低減されることが観察されている。

<ルテイン・ゼアキサンチン>
 ルテイン・ゼアキサンチンは青色光の吸収と酸化抑制とい う二つの方法で網膜を保護していると考えられる。 青色光吸収:ルテイン・ゼアキサンチンは短波長を遮光し、 青色光による酸化を抑制しており、青色光のフィルターとし て効果的に作用している。光障害が観察される作用スペクト ルは最大400と450nmで、これは黄斑色素の吸収スペクトルと 一致する。 酸化抑制:カロテノイドには一重項酸素や脂質過酸化により 発生するヒドロキシラジカルに対する消去能があり、光や代謝などによる組織の変化を旺盛する。



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