2006年1月 No.110    PDF

『保健栄養学術講演会2005』開催報告

 社団法人日本栄養士会ならびにビタミン広報センターでは、栄養教育プログラムの一貫として、各県の栄養士会員を対象とした学術講演会を開催しています。本会は、健康に対する個々人の自覚、特に栄養素のバランスとその役割を正しく理解してもらうために、健康・栄養指導のマンパワーとして期待される栄養士を対象に講演会を開催し、専門的な知識を理解させ、今後の活動に資することによって、国民の健康の保持・増進に寄与することを目的として行われております。本年は栃木県栄養士会及び山梨県栄養士会主催による講演会が以下のように各地で開催されましたので、ご紹介させていただきます。
第1回  
主催: 社団法人日本栄養士会、社団法人栃木県栄養士会  共催:ビタミン広報センター
日時: 2005年11月16日(水)  於)コンセーレ・アイリスホール
プログラム: 「抗酸化ビタミンと生活習慣病との関わりー最近の成果を踏まえて」
                       茨城キリスト教大学教授五十嵐脩氏
「カテキンと健康との関わり」大妻女子大学家政学部長大森正司氏
第2回  
主催: 社団法人日本栄養士会、社団法人山梨県栄養士会  共催:ビタミン広報センター
日時: 2004年11月19日(土)  於)ぴゅあ総合
プログラム: 「多価不飽和脂肪酸と生活習慣病との関わり」佐伯栄養専門学校非常勤講師平原文子氏

 

抗酸化ビタミンと生活習慣病との関わりー最近の成果を踏まえて

茨城キリスト教大学生活科学部 教授 五十嵐脩

 我々人間は長い間、感染症や生活習慣病などの疾病と戦ってきました。現在では高齢化が急速に進んでおり、結核のように急速に減少してきた感染症なども、高齢化社会では深刻な問題となります。現代の死因については、脳血疾患やガンなどの生活習慣病といわれる疾病が高い割合を占めています。生活習慣病は食事が大きな要因と考えられていますが、もう一つ大きな要因となっているのが酸化です。私達の周囲には、タバコの煙や汚染物質、紫外線など、酸化を引き起こす活性酸素やフリーラジカルの発生源が存在しています。全ての疾病がフリーラジカルだけで起きているわけではありませんが、関与していることは事実です。生きるために必要な酸素は、数%は活性酸素 やフリーラジカルに変化します。これが過剰になると、一番酸化されやすい脂質が酸化され、DNAやたんぱく質の変性がおこり、ガンや動脈硬化などの疾病につながっていくのです。これらの酸化を防御するのが、体内に存在する抗酸化酵素や外から摂取する抗酸化物質です。抗酸化酵素の代表にSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)がありますが、このSOD活性をヒトと他の動物と比較すると活性が高い動物ほど寿命が長いことが示されています。血中の抗酸化物質代表であるビタミンEの血中濃度においても、SODと同様に高濃度であるほど寿命が長くなります。外から摂取する抗酸化ビタミンの代表は、β-カロテン(プロビタミンA)、ビタミンC、

 ビタミンEであり、これらは体内では合成できません。この他には緑黄色野菜に含まれているカロテノイドにも抗酸化活性があります。

心血管系疾患とビタミン
心血管系疾患のリスク因子として、昔は血圧や喫煙が約20%、その他高コレステロール血症や肥満、糖尿病などが上げられていました。心疾患との関連ではビタミンE(α-トコフェロール)との関連性について研究がさかんに行われてきましたが、各国のα-トコフェロール摂取量と冠状動脈疾患死亡率との関連を調査すると、摂取量の高い国ほど死亡率が低くなるという負の相関関係がみられました。これは赤ワイン摂取との関連性を調査した結果と同様の結果となりました。また欧米・日本において食品・栄養素と心臓病による死亡率との関連性を調査した結果をみると、α-トコフェロールや赤ワインと強い負の相関関係がみられています。植物油摂取量とも負の相関関係がみられましたが、これは植物油中には多くの場合ビタミンEが含まれていることが影響していると 考えられます。最近のデータではビタミンEと心臓病との関連性はないとの報告もだされていますが、これまでの数多くの研究結果をみると、ビタミンEの効果を期待できると思われます。ビタミンEにつきましては、心疾患以外にもアルツハイマー症の進行との関連性についても注目されています。
  心疾患に関しては、ビタミンEの他に新しくホモシステインという物質が因子となることが解明されてきました。血液中のホモシステイン濃度が高いと心疾患リスクが増加するとい

 


う多くの研究報告があります。日本人では元来ホモシステイン濃度が少ないのですが、ホモシステインの先天的代謝欠損は以前より認められています。このホモシステイン代謝に関与する補酵素は、葉酸、ビタミンB12、ビタミンB6です。特に葉酸の影響が大きくみられます。ビタミンB12につきましては、日本では貝類から摂取出来ることもあり通常は不足状態になることはありませんが、胃切除者などは吸収不良となり不足する可能性があります。葉酸摂取量は国により差があり、日本における女子大生の調査結果では個人差が大きく、推奨量を満たしていない人も多くみられているため、注意が必要です。葉酸の場合は胎児の先天性欠損症の発症にも大きく影響するため、女性では特に注意して摂取する必要があります。

γ-トコフェロール
 ビタミンE(トコフェロール)については、最近γ-トコフェロールが注目を集めています。生体内では肝臓においてα-TPPがα-トコフェロールのみを運搬し、血液中の90%はα-トコフェロールであり、γ-トコフェロールは10%程度の存在であるため、これまでもα-トコフェロールの活性のみが重要であると考えられてきました。しかし、近年γ-トコフェロールが体内で側鎖を短くされ、γ-CEHC(カルボキシエチルハイドロキシクロマン)となり、これにはナトリウムの排泄促進作用のあることが判明しました。陸上動物の中で食塩を過剰に摂取することがあるのはヒトのみであり、ヒトにとっては食塩排泄作用のあるγ-CEHC源となるγ-トコフェロールの摂取は非常に意義のあるものだと考えられ、更なる研究が望まれます。

CoQ10(コエンザイムQ10)
最近話題となっている抗酸化物質の一CoQ10があります。CoQ10は体内で生合成されるもので、最初はうっ血性心不全の治療薬として使用されていたのが、近年食品として使用可能となりました。推奨摂取量や食品安全委員会などでも議

論されていますが、まだ数値は明確にされていません。CoQ10はLDLの酸化抑制効果が高く(図)、体内では休みなく働き血液を送り出している心臓に最も多く存在しています。また原尿をつくり濃縮するためにエネルギーが必要な腎臓には心臓の次に多く存在しています。CoQ10の不足状態や摂取時の作用などは個人差が大きいため、全ての人がサプリメントから積極的に摂取するべきものではないと思われます。しかし体内のCoQ10は加齢とともに減少していきますので、高齢者は注意して摂取する必要があります。また種々の疾病に効果があるといわれていますが、これも個人差が大きく一概にはいえません。例えばコレステロール低下作用のあるスタチン系薬剤摂取者ではCoQ10不足状態に陥りやすくなります。これはCoQ10とコレステロールの合成経路がほとんど同じであるため、コレステロール合成を阻害するとCoQ10合成も同時に阻害してしまうためです。米国ではスタチン系薬剤使用者にはCoQ10も同時に投与するなどの対策がとられています。このように年齢や疾病、薬剤服用により不足している場合はサプリメントを利用するのも良いでしょう。
このようにビタミンEやビタミンC、CoQ10などの抗酸化物質は、健康の維持・増進のためには欠かせないものですので、普段から食生活や自身の栄養状態を考え、サプリメントなどを上手に利用していただきたいと思います。

カテキンと健康との関わり

大妻女子大学 家政学部長 大森正司

 健康という言葉は大変重要な言葉だと思っています。辞書を引くと 「体や心が健やかで悪いところが ないこと」と掲載されていました。 他にも「病気でないことを健康と いう」という文章を見ることもあり ます。現在はWHO(世界保健機構)が提唱している健康の定義、「健康とは、完全な肉体的、精神的及び社会福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。到達しうる最高基準の健康を享有することは、人種、宗教、政治的信念又は経済的もしくは社会条件の差別なしに万人の有する基本的権利の一つである。」が世界的に使用されています。
  私は健康のためには「快食・快眠・快便・快汗・快感」の5快を日々満たしていくことが大切なのではないかと主張しています。

快食:  
  厚生労働省からも提唱されているように1日31品目を
食することです。日本では幸いにも米、茶、魚、大豆
などが豊富です。食物が豊富な現代では軽視されがち
ですが、和食を中心としたバランスのとれた食事は健康
にとって最重要であるともいえるでしょう。
快眠:  
  眠れないという症状は精神的に不健康になりますの
で、1日の睡眠時間には約7時間を目標にすると良いで
しょう。
快便:  
  毎日のお通じを習慣にすることは大事なことです。
快汗:  
  自身の好みや生活習慣に合わせて、ジョギングや体
操などで汗をかくことが大事です。
快感:  
  大きな口をあけて笑うという行為は精神的に豊かな健
康をもたらします。

上述した5快の中でもやはり「食」は健康を維持する上でも最後まで重要な要因となってきます。以前は摂取エネルギーの

70〜80%を穀物から摂取していましたが、現在では50%近くまで減少し、脂質の摂取が増加してきました。油を使用して調理すると食品も美味しくなることは事実ですが、油の摂取増加には酸化の問題を考えなければなりません。現代の食生活では抗酸化物質を意識して摂取しなければ、過酸化脂質などによる健康障害を防ぐことが困難な状況に陥っています。
  日本では和食に合わせて古くから緑茶が飲まれていました。ちなみに緑茶を作って飲用している国は、日本、中国、ベトナム、ミャンマーのみです。お茶は昔からあらゆる臓器(腎臓・心臓・肺等など)に効果があるといわれる薬として扱われていましたが、薬だといわれた理由はカフェインで、二日酔い時の頭痛が軽減されるのもカフェインが大きな要因です。
日本でのお茶の歴史は古いのですが、このカフェインを初めとしたお茶の成分に関する研究がすすみ、それらの結果を報告する国際会議が日本で開催されたのは1991年でした。この国際会議ではカフェインではなくカテキンが脚光を浴び、カテキンに関する研究報告が主でありました。今日でも血中カテキン運搬物質や体内での働きなどに関する機能が次々と解明されつつあります。
 カテキンには抗酸化作用があり、脂質摂取量が増加した日本人における、ガンなどの酸化が要因の一つとなっている疾病に効果のあることが期待されています。静岡県人を対象とした調査(小国ら)では、茶摂取量の多い地域ではガン発症率や消化器系疾患の罹患率が少ないことが明らかとなっています。カテキンにはEC(エピカテキン)、EGC(エピガロカテキン)、ECG(エピカテキンガレート)、EGCG(エピガロカテキンガレート)という種類がありますが、緑茶中のカテキンにはEGCGが最も多く、50%以上を占めています。これらのカテキンの中でも抗酸化活性の強いEGCG(エピガロカテキンガレート)を投与すると、血清コレステロール濃度が濃度依存的に低下したという結果が動物実験において得られています。さらにEGCGを脂質と同時に投与すると、油の吸収が阻害され糞中への排泄量が増加することが示されています(図)。

日本のお茶は「やぶきた」という品種が多く出回っていますが、「べにふうき」という品種には、抗アレルギー活性のあるメチル化カテキンという成分が含有することがわかってきました。日本ではアレルギー症が増加しており、大きな問題となっていますので、このような作用のある茶や成分の更なる研究が望まれています。カテキン以外にも茶中のアミノ酸であるテアニンも注目を浴びています。テアニンによるアロマテラピー、リラクゼーションなどの効果についても研究が行われています。
 このように茶中の成分に関する研究が進行していますが、お茶を飲むということは、お茶を入れて人をもてなすという行
為ともなり、人と人とのコミュニケーションにも役立ちます。

多価不飽和脂肪酸と生活習慣病との関わり

佐伯栄養専門学校 非常勤講師 平原文子

 現在日本人の全死亡者のうち60%以上は生活習慣病が原因であり、その大部分は食生活に起因しています。また日本が長寿国となった背景にもやはり食生活が考えられ、世界でも日本食が注目され、研究されていることは周知の事実です。
日本は栄養面でも世界を先駆けた活動をしており、栄養士というポジションを作り養成したのは日本人の佐伯先生でありました。さらに機能性をもった食品の開発を手掛けたのも日本が最初であります。このように栄養という分野を重要視してきた日本では、やはり世界に類をみない国民の栄養調査も長年にわたり継続し、国民の栄養状態の把握や食事摂取基準の設立、健康管理等に役立て

てきました。生活習慣病の増加や高齢化に伴い日本食が見直されてきましたが、栄養素別にみますと脂質の摂取状況の影響も大きいことがわかります。
現在の脂質に関する研究は、脂肪酸にまで分解され、アラキドン酸やリノール酸、またEPAやDHAなどの個々の脂肪酸に関する研究が進み、各々の機能が解明され、健康への影響が明らかとなってきました。脂肪酸が注目を浴びた発端の一つはNI-HON-SAN Studyです。これは日本在住の日本人とホノルル及びサンフランシスコに在住している日本人の心疾患罹患率を調査したところ、同じ日本人の遺伝子をもつ集団であるにもかかわらず、在住国により罹患率に差のあることが判明した研究です。食生活調査の結果、脂質摂取量の違い、つまり日本在住群では飽和脂肪酸の摂取量が他国在住群よりも低く、これが罹患率の差につながったと考えられます。


また1960年代の日本人と1980年代の日本人、ならびに1985年の米国人の食生活を比較した調査では、飽和脂肪酸摂取量が日本より米国の方が、また日本人においても1960年代よりも1980年代の方が多かったのです。n-6系不飽和脂肪酸/n-3系不飽和脂肪酸の比率をみると、1960年代では約3近くであったのが年々高くなってきました。米国でもn-6/n-3比が高く心疾患増加の要因となっています。心疾患罹患率を低下させるには1970年代の日本食が理想とも言えるでしょう。さらにデンマーク人とグリーンランドのイヌイットを対象とした研究(グリーン&クローマンら)では、総脂肪摂取は多いが血中脂肪酸をみるとEPA濃度が高かったイヌイットの方が心筋梗塞による死亡数が非常に少なく、脂質の量ばかりでなく構成脂肪酸の種類が影響していることが判明しました(表1)。
Nures's Health Studyでは魚摂取量と心筋梗塞による死亡率との相関性が明らかとなりました。Harvard's Physicians'Health StudyやGISSI Studyなどでも同様の結果が報告され、現在でもこの種の研究は数多く進行されています。
 魚の摂取と脂肪酸代謝との関連性に関する研究から始まり、近年では魚に含有されている脂肪酸、特にEPAやDHAが脂質代謝に及ぼす影響について解明されてきました。現在ではDHAを摂取すると血中コレステロール濃度が低下し、EPAを摂取すると血中中性脂肪が低下することが明らかとなりました(表2)。このように各脂肪酸の機能が明らかになること
で、例えば血栓が出来やすい患者さんにはEPAを投与するなど、

高脂血症患者に対する治療も疾患タイプにより投与する脂肪酸の使い分けが可能となりました。
  最近ではn-3系不飽和脂肪酸の抗アレルギー作用が注目を浴びています。通常の食事ではリノール酸系(n-6系)脂肪酸の摂取量が比較的多めで、n-6/n-3比が高いのですが、この大きな理由は魚の摂取不足と考えられています。アレルギー患者が増加してきた要因の一つにリノール酸の摂取増加が疑われており、アトピー性疾患患者がn-3系不飽和脂肪酸を摂取すると炎症が軽減するという報告もあります。このような結果を考慮し、アレルギー性疾患や高脂血症罹患者に対しては、n-6系不飽和脂肪酸摂取量を減少させ、n-6/n-3比を1に近づけるようにする栄養指導が行われる場合があります。ただし健常者においては、n-6系不飽和脂肪酸摂取量を減らすよりも、n-6/n-3比のバランスを4:1程度に保つことが重要です。
 もうひとつ話題となっているのが、DHAと脳機能との関連性の有無です。「DHAを摂取すると頭が良くなるか?」という問い合わせも増えています。全く嘘とは言えませんが、ただ多量に摂取するだけで効果が現れるとは言い難いのが事実です。ただし脳の中にはDHAが存在しますので、その働きを活性化させるためには確かに摂取することも大切です。各国の母乳中多価不飽和脂肪酸組成を比較すると、n-6/n-3比がアメリカやドイツよりも日本が低いことがわかります(表3)。
実際にDHA摂取により脳機能が向上するという可能性はありますので、乳児期にn-3系不飽和脂肪酸摂取量低下を避けるためにも、母親の適切な脂質摂取が望まれます。
 今日は情報化社会であり、消費者はテレビやインターネットなどから多種多様の情報を得ることができます。しかし残念ながら全てが正しい情報とは限らないため、専門家の方々には正しい知識を身につけ、消費者に対して指導や教育に務めていただきたいと思っています。
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ビタミン広報センター(略称 VIC)は、国内外に於ける最新のビタミン研究の成果を科学的に正確に保健、栄養関係者および消費者の皆様に提供しております。当センターは、1981年に設立されました。

 



 
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